スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

英語圏以外の世界観を獲得しにいく

長男がアメリカの高校に交換留学したいということで、いくつか高校留学をアレンジしている団体の資料を調べた。世界をみる、世界を知るといっても、多くはアメリカが留学の派遣先だった。戦後、アメリカが日本を親米国にしようと、多くの日本人留学生を受け入れてきた経緯があるのだと思う。なぜか、費用もアメリカが若干安い。なんとなくアメリカに誘導されているような気がする。また、「ワールド留学フェア」と銘打っても、参加国はアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドアイルランドで、これでは「ワールド」ではない。

日本人にとって海外というと英語圏になってしまうのは、将来の職業選択の幅が広がる、仕事に使える、昇進に有利、転職に有利など、かなり実利的な理由があると思われる。しかし、英語圏からの情報ばかりに頼ると、自分の世界観に偏りが生じてしまうので気をつけなければならない。かなり意識して英語圏以外から情報を取る努力をしないと、頭の中は英語圏からの情報で支配されてしまうであろう。

たとえば、日本における海外からの情報は、新聞やニュース、書籍を通じてもたらされるが、そのほとんどが英語を媒介して得られた情報で、日本人の世界観は、英語圏、おそらくアメリカの視点とほぼ同じなのだと想像できる。木村護郎クリストフ『節英のすすめ』(萬書房、2016年)によると、湾岸戦争アフガニスタン紛争、イラク戦争で日本のメディアは「空爆」という上から落とす目線の言葉を多用した。東京大空襲というように「空襲」という言葉があるにもかかわらず。もう無意識のうちに日本人の目線はアメリカ人と同じになっているのである。それらの戦争のイメージはCNNの報道などからくるものであり、その「空襲」によって無実の民間人を多く殺されていることは忘れ去られることになる。

このような偏向を修正し、まともな思考を取り戻すのに有用な情報源がある。東京外国語大学の「日本語で読む世界のメディア」というプロジェクトのウェブサイトで世界の情報を日本語に翻訳している。「中東メディア」「東南アジアのメディア」「南アジアのメディア」と三種類あり、それぞれの言語で、いろいろなニュースを知ることができる。

たとえば現在、政治的な緊張が続くトルコとフランスの対立があるが、日本人にはフランスで発生したテロのニュースやトルコにおけるフランス製品不買運動エルドアン大統領のマクロン大統領に対する挑発的な発言の情報しか入ってこない。そこで、前述の「中東メディア」にあるトルコ語をのぞくと、「フランスでトルコ系商店に襲撃」や「フランスにおけるトルコ支持で逮捕」などの記事がある。フランスのトルコ人の商店に「エルドアンに死を」「フランスはフランス人のものだ」「トルコ人に死を」などと落書きされたり、通勤途中のトルコ人が襲撃されたり、なんとも理不尽なことがフランス国内で発生しているわけである。しかし、日本にこのような事実は伝えられることはない。

そもそも、日本では「ニューズウィーク」や「タイム」などを読めば国際人になる。しかし、どちらもアメリカの週刊誌である。「ウォール・ストリート・ジャーナル」や「フィナンシャル・タイムズ」を読めば国際派ビジネスマンになる。しかし、それぞれアメリカとイギリスの経済紙に過ぎない。そして、「CNN」と「BBC」を視聴すれば超がつく国際派になれるのだろうか。でも冷静に考えれば、単なる英語信奉者でしかないのではないか。

ちなみに、TRT(トルコ・ラジオ・テレビ協会)のウェブサイトで、「エルドアン大統領:マクロン大統領は『去り行く人』」という記事には、マクロン大統領に向けてエルドアン大統領は次のような発言をしていることを伝える。

「我々はあなたをアルジェリアで知っている。100万人のアルジェリア人は、あなたが殺した。80万人のルワンダ人は、あなたが殺した。我々はあなたをリビアで知っている。数多くのリビア人は、あなたが殺した。我々に人道について説くことはできない。我々はオスマン人としてそこへ行き、平和をもたらした。そこへ行き、人道をもたらした。まず、これを学べ。」

冷静に史実を述べており、決して間違ってはいないのであろう。もちろん、トルコとフランスの関係が悪化することが両国および周辺国にとって何の利益にもならないという点はあるが、トルコの視点でみると彼の発言は正しいのである。