スペシャリストの生き方

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「30歳定年制」を導入すべき理由

ところで、私見としては40歳定年制にするなら30歳定年制にしなければいけないと思う。もし、日本の労働市場で、新卒一括採用が変わらないのであれば、大学卒業後に入社した人は、30歳までの有期雇用契約を締結する。あるいは、10年の有期雇用契約でもよい。そして、その後は1年の有期雇用契約としていく。ただし、契約更新しない場合は1年前までに本人に通知して、転職活動の期間を確保する手当をすることにする。よって、実質的には2年の有期雇用契約と同じともいえる。そして、転職活動期間の1年間に次の仕事が見つかれば、労働者側からは勤務している会社に1か月前通知で退職することができる。これであれば、ある程度、労働者保護にも資することと思う。

あるいは、最初から終身雇用にしておき、企業側は1年前通知で解雇を容易にすることでもよいかもしれない。1年前通知の随意雇用契約(employment-at-will with a one year  notice period)とでもいおう。スピード重視の経営の時代に、1年前通知では長すぎるという反論があるかもしれない。1年も経過すれば環境も大きく変わる可能性もある。あるいは、会社の経営も急激に悪化するかもしれない。しかし、労働者に納得できる転職機会を確保するためにも、1年前通知は最低限必要であろう。そして、学校を卒業後、最初に勤務した会社に7年から8年は最低勤務しない限り、転職市場で価値ある人材にはなれないので、30歳までの有期雇用で、その後は1年ごとの契約更新が望ましいと思う。労働者の保護も確保しつつ、雇用の流動性を高める制度を構築するのは容易ではないが、それをしないと日本企業も破綻し、労働者も専門性を身につけないまま、労働市場に放り出されることになる。もちろん、その前に自信がある人は、会社を変えても問題ないし独立してもよいであろう。

40歳定年制に反対の理由は、40歳という年齢は子育てという大仕事が入ってくる時期だからである。この時期に雇用が不安定になるのは精神的にもよくない。酷である。どうせなら、30歳を目安に準備をするほうが楽である。30歳を目安にすべての社会人は20代の努力で一人前となり、会社ではなく業界で通用するスキルを身につける。そして、やる気のある人は身軽な20代後半から30代前半で二つ目の会社でスキルを活用する。30歳までに臆することなく、いろいろな会社で活躍できる状況を整えておいたほうが、残りの人生は楽である。社会人と会社は対等な関係で、お互い働く条件を交渉できる。

また、独身時代に転職とはどのようなものか経験しておくことは有用である。些末なことであるが、退職届の出し方、周囲への告知、上司との交渉、社会保険の各種手続きなど、若いうちに経験しておくことで、その後、転職への精神的ハードルはかなり下がる。このようなことをいうと、会社が安い労働力を活用して搾取することを恐れる意見もでるかもしれないがむしろ逆である。会社と対等に交渉できる実力を身につけてもらい、よりよい条件を引き出していくことになる。そもそも優秀な人材に残ってもらいたい会社はそのような自立した人材を解雇したりしない。

非現実的であろうか。しかし、他の先進国と比較するなら、新卒一括採用をして、終身雇用という国のほうが珍しい。新卒者の能力の見極めなどほぼ不可能に近いにもかかわらず、この制度で恩恵を受けた学生は一生安泰で、そうでないものは一生貧困であるような不公平な社会のほうが問題ではないだろうか。この日本独特の新卒一括採用を続けるのであれば、30歳定年制を導入し、その不公平感を是正する必要があろう。フランスなどは新卒者が期限付きの雇用契約しか結べないのが一般的である。期限付きの間に実力が認められて初めて期限の定めのない雇用契約を締結することができる。なぜ、日本でそのような合理的な採用ができないのかは、日本の雇用慣行における歴史的な経緯があるので仕方がないが、新卒一括採用と終身雇用のセットほどアン・フェアな制度はない。