職人的生き方の時代

自分だけの生態学的ニッチで生きる

労働者に有利な日本の労働法を徹底活用する

労働法の専門家である、大内伸哉氏が、『会社員が消える』(文春新書、2019年)という刺激的なタイトルの本を出している。そして、これからはプロ人材あるいはスペシャリスト人材にならなければいけないことが提言されている。今後、AIやロボットが導入されて単純で反復して行われる作業は人間がやる必要がなくなる。このような業務を担っていた高給取りのホワイトカラーは、ジェネラリストだったはずなので、これらのジェネラリストには、会社として専門性の高い業務に移行してもらう必要がでてくる。そして、わが国の労働法をみると解雇権濫用の法理というものがあり、会社は簡単に不要になった人材を解雇することができない。よって、会社としてもなんとか労働者にプロ人材になってもらわなければ困るわけである。

労働契約法16条において「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されている。すなわち、労働者を解雇するには、客観的合理性と社会的妥当性が必要になる。ここでいう客観的に合理的理由は、労働者が事故などで労働能力を喪失したことや、労働者に義務違反があったこと、あるいは経営上の必要性でやむを得ない、というような事情がある場合が該当する。さらに、このような理由のどれかが存在したとしても、社会通念上相当な事情がなければ解雇は許されない。よって、会社は「客観的合理性の要件」と「社会的相当性の要件」を満たした場合に、やっと労働者を解雇できることになる。いってみれば、会社のお金を使いこみでもしなければ解雇されないのである。よくドラマで労働者が「自分はクビになる」とか、経営者は「お前はクビだ」などというが、そんなに簡単に労働者を解雇できるような環境は日本にないわけである。こんなに恵まれた環境にいる日本人は、この好条件を使って自分に有利な状況を作り出すべきなのである。

大内氏によると、ジェネラリストからスペシャリストへの労働契約の変更は、契約の本質的な部分の変更なので労働者本人の同意が必要になるという。また、労働者はこのような契約の変更に応じなければならないか、というとNOという権利はあるという。ただし、会社が雇用を維持するだけの余裕がなくなってきた場合は、裁判所も解雇を有効と判断する可能性はあるという。

しかし、考えてみると、雇用を維持できないほど経営が悪化した会社と労働契約を継続する意味もあまりない。遅かれ早かれ倒産処理に入るのであれば、そんな混乱に巻き込まれる前に、労働者はその会社から去るほうがよいわけである。決して転職を奨励するわけではないが、ある程度、転職慣れはしておくほうがよい。いろいろな手続きがあり、精神的にも負荷がかかるだろうが、気楽に転職できるたくましさは身に着けておいて損はない。沈みゆく船があり、前方から沈みだしたからといって後方へ避難しても、沈むという結果は回避できないのである。労働者は別の船に乗り込み、新たな活躍をしなければならない。