職人的生き方の時代

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「40歳定年制」が提案する終身雇用の終焉

柳川範之氏の『日本成長戦略40歳定年制』(さくら舎、2013年)によれば40歳定年を推奨している。いくつかポイントがあるが、技術革新のスピードが速くて、若い時代に身につけた技術がいつまでも使えるものではないこと、長寿化で働く期間が長くなったこと、あるいは、もう日本企業が終身雇用に耐えられなくなってきていることなどもある。このような背景において、人材はスキルを定期的にブラッシュ・アップすることが必要であり、たとえば75歳まで働き続けられることを前提に、人生三毛作として20年ごとくらいに区切り、つねに最新の技術をもって労働市場で活躍できる人材になろうということである。

現状では期限の定めのない雇用契約がいわゆる正社員としての唯一の働き方になっている。2012年以前には60歳以上の労働者を雇用することは企業の努力義務であったが、2012年には企業に対して、希望する労働者全員を65歳まで継続雇用することが義務化され、2013年に法律が施行された。これが一見、労働者にやさしい法改正と思われるが、65歳を過ぎたとたんにキャリア切れてしまい、そこから先がないことが問題視されることになる。だから、40歳定年制にして、それまでに実力をつけて、次の20年を走り、また、60歳頃にさらにスキルをブラッシュ・アップして次の人生へ突入するというわけである。

しかし、40歳定年制は、呼称として注目されるが、内容的には精査すべき点が多い。まず定年制というのは期限の定めのない労働契約とセットである。期間の定めのない労働契約は、一般に終身雇用といわれているが、実際には終身ではなく、ある一定年齢に達すると退職するので期間の定めもあることになる。通常、就業規則に退職年齢が規定されて、ある種の合意解約ということになっている。よって、40歳定年制にすると、40歳以降にそのまま同じ会社で働きたい場合は、再雇用ということになるであろう。

それでは、有期雇用契約の場合はどうであろうか。労働基準法14条において、上限が3年とされ、高度専門知識の場合は上限が5年となっている。これは本来、強制労働や不当な人身拘束を排除する趣旨から長期の雇用契約で労働者を縛ることにならないように定められている。しかし、現代社会においてはむしろ会社が安価な労働力を、必要な期間のみ調達する手段として使われているのが現状である。よって、40歳定年制というのは、期間の定めのない労働契約を廃止し、有期雇用契約として入社後40歳までの期間を設定する雇用契約を結ぶということになるのではないだろうか。この点、労働基準法の改正が必要になる。

ちなみに、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでは定年制は存在しないどころか定年制は違法である。年齢差別にあたるからである。個々人が退職時期を自分で決めることができるわけであるが、考えてみると当然ともいえる。60歳や65歳になった途端に鐘が鳴るわけでもない。人生に線が引かれているわけでもない。その時点で急に能力が下がったり、意欲が減退したりするわけでもない。人によって能力の限界を感じる時期や働く意欲が減退する時期は異なるはずなので、定年制が存在しない社会のほうが自然である。多くの人のやる気と活躍の場を奪う定年制は、そろそろ見直されなければならない。