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校正の落とし穴から学ぶ: 出版ビジネスの厳しさ

昨年出版した『学び直しで「リモート博士」』(アメージング出版、2023年)で、また過ちをみつけました。参照した文献の著者名の漢字と書名が微妙に間違っていました。誰も気がつかない誤りだと思いますが、さすがに著者ご本人は気づくでしょう。そして、ご本人に献本として差し上げたものの、かえって嫌な思いをさせてしまったと後悔いたしました。

今、大西寿男『校正のこころ 増補改訂第二版』(創元社、2021年)を読んでいるのですが、まさしく落とし穴にはまりました。年号や、人名、地名、書名といった固有名詞の勘違いは要注意だそうです。実は、以前オンデマンドで出版した時も、参照した書名を間違えたことがあります。この落とし穴を避ける方法として、以後、版元ドットコムなどからコピペする、あるいは論文名であれば、国立国会図書館の所蔵資料の検索からコピペすることにします。

年賀状などでありがちですが、一度名前を間違って入力すると、毎年間違った名前で送られてくる。私は気にならない方ですが、おそらく受け取った方は気分が良くない。

その他、大西氏の指摘によると、引用文の引き写しミス、専門家にしかわからないような事実関係の誤りなど、およそ人間が書く原稿に完璧などありえないというのが、校正にたずさわってきた者の実感だそうです。

引用文の引き写しミスについては、直接引用をできるだけ避け、間接引用を心がけています。それで余計な確認作業も減るのでいいと思いますし、文章全体で自分の文体が保たれ、読者が読み進める流れもスムーズになるのではないかと思います。

1970年代までは、一冊の本をつくれば何度でも増刷して、利益をあげることができる時代だったそうです。しかし、90年代初頭のバブル経済崩壊後、どんな良心的な出版社でも初版を売り切れるかが死線を分けるラインになったそうです。だから、安価に多くの本を出し続けなければ倒れてしまい、自転車操業に陥っているのが出版ビジネスだとのこと。

意外だったのは、このような状況で、校正者も仕事の品質を落とさざるを得ないことがあるということでした。締切が短い案件では、最初から高い品質は保証できないことを編集者へ伝えるそうです。言葉と向き合う校正者の仕事は詳しく存じ上げませんが、報酬や労働環境の面でも厳しい世界なのではないかと想像いたします。自著を出版するたびに自分にはできない仕事だとつくづく思います。