スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

健康診断の義務は国民のためではない

会社の健康診断結果票が戻ってきました。会社では、35歳上の従業員には人間ドックを推奨していますが、私が受けるのは35歳未満の人と一緒の健康診断です。人間ドックは15年以上受けていません。白髪交じりのおじさんが、なぜ若者と一緒に一般の健康診断を受けているのかは、逆説的ですが「病人」にならないためです。

そして、今年も昨年に引き続き「LDL高値」ということで、再受診を促され「医師の指示に従ってください」との総合所見が記載されていました。2年連続のE判定ですが、数値は216で、基準範囲は139以下ということです。産業医がしつこくフォローしてくるので、再受診はすると思いますが、薬を飲むことはなく、特に対処もしない予定です。

コレステロール中性脂肪で薬は飲むな』(祥伝社新書、2008年)や『高血圧のほとんどは薬はいらない!』(角川SSC新書、2014年)の著書で有名な東海大学名誉教授の大櫛陽一氏によると、人間ドックは日本特有のもので、海外では行われていないそうです。そして、人間ドックでは、何かしら体の異常を指摘されることが多いわけですが、それにはカラクリがあるといいます。実は多くの人が異常と診断される仕組みになっているのです。

すなわち、健常な人の各検査項目の値は、左右対称の正規分布になり、その中央から95%を占める部分を正常としています。残りの上位と下位のそれぞれ2.5%の合計5%が異常とされることになります(下図参照)。よって、検査項目の多い人間ドックでは、誰もが結果的に項目のどれかで異常とされる確率が高まるわけです。

 

出所:中恵一「精度管理の考え方」株式会社エーアンドティ

この点、人間ドックが「病人」をつくり出している可能性に十分留意する必要があります。本来であれば薬が不要な人が薬を処方されたり、不必要な食事制限を強いられたり、余計な治療をさせられている可能性があるということです。

労働安全衛生法66条1項では、「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない」と規定し事業者側に義務を課しています。ここでいう健康診断は、人間ドックではないので、事業者は、労働者に通常の健康診断を受けさせている限り、法律を遵守していることになります。ですから、私は人間ドックではなく検査項目が少なく、体や精神への負荷も少ない健康診断を選んでいます。

しかも、労働者が健康診断を拒否した場合、会社によっては、就業規則に受診を拒否した労働者を懲戒処分することができる規定があれば、労働者を処分することも可能です。就業規則違反ということです。

なぜここまで法律は執拗に健康診断を強制しようとしているのでしょう。このようなことをしているのは日本だけです。私は、医師会や製薬業界が、労働安全衛生法に健康診断の義務規定を設ける働きかけをしたと思っています。そもそも、健康など本人の自己責任です。多くの国民が事業者に雇用されていますから、事業者に対する健康診断の義務規定を設けることで、大きく網をかけることができます。そして、「病人」をつくりだすことで、医師も製薬会社もビジネスが創造できることになります。

このように考えると、一労働者として会社や産業医に迷惑をかけず、最大限できることが、一般の健康診断の受診と再受診となるわけです。自分自身はいたって健康です。LDL高値が高いのは、昨年から糖質制限食など試しているかなのですが、今は少し緩めています。原因は医師よりも自分が理解しています。自分の健康は、自分の責任で管理していきたいとあらためて思いました。