スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

小さく絞り込みフィールドを自分で作る

高校生や大学生向けに書かれたと思われる、稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書、2020年)からヒントを得ました。普通は、ナンバーワンにならなくてもいいから、オンリーワンをめざそうといいますが、実はオンリーワンを達成していれば、自動的にナンバーワンにもなっているということです。

これはビジネスの世界にも通用することで大人も一緒です。自分の「強み」あるいは「個性」を活かすことで、その実現が容易になります。

生物学を研究している稲垣氏によると、生物の世界は厳しく、人間社会とは比較にならない激しい競争が繰り広げられ、ナンバーワンしか生き残れないそうです。ただ、食物連鎖の頂点にいる動物は、その下にいる動植物に「依存」しているので、下の動植物が減ると生存が危うくなる脆さがあります。よって、結局は最強のナンバーワンと思われる動物もか弱い部分を持ち合わせていることになります。

そして、ナンバーワンしか生き残れない自然界においても、地球上の生物すべてがナンバーワンになる方法があるといいます。それがオンリーワンのポジションをみつけることになります。この表現は、ビジネスの世界でも使いますが、生態学では「ニッチ」といいます。

人間社会も同じで、縄文時代を想起しても、力の強い人は獲物を狩りに行き、泳ぐのが得意な人は魚を獲ります。手先の器用な人は道具を作り、調理の得意な人は食事を作るなど、それぞれ得意な人が、得意なことをすることで成り立っていました。助け合う中で自然にニッチをみつけていたのでしょう。

そして、現代社会でもニッチを探すことで、ナンバーワンになれるコツが二つあります。

①小さく絞り込む
②フィールドを自分で作る

以上です。自分の強み、あるいは個性をみつめ続け、どの分野が良いのか絞り込み、誰も手をつけてない分野でフィールドを作ってしまう。自分の個性が何かわからない人も多いので、当たりをつけて、その周辺で小さなチャレンジと失敗を続けていれば、必ず自分だけのニッチがみつかるものです。

私の場合、せっかく授与された博士(法学)の学位を活かして、大学で非常勤講師でも探そうかと思いました。想定される講座は「保険法」「会社法」「商法総則・商行為法」などです。ただ、どれも既存の伝統的な学問で体系的に確立されています。

そこで、自分が金融サービス業に勤めているから「金融法」という新しい分野もいいかと思いました。しかし、この分野もファイナンス分野で活躍している弁護士や銀行出身者のフィールドで、自分の個性や強みが活きるか疑問に思いました。まったく土地勘がないわけではないので、少し勉強すれば専門家になれるかもしれませんが、やはり前述の①②からすると避けるべき分野かもしれません。

そうなると「賠償責任保険法」なるフィールドを自分で作って、勝手に売り込めばいいのかもしれません。イギリスなどでは基本書も出版されていますが、日本ではまだです。教科書も自分で執筆して売り込めば、非常勤で雇ってくれる大学があるかもしれませんね。稲垣氏の書籍から得られた示唆は、「小さく絞り込み、フィールドを自分で作る」という原則から離れないで、という教訓でした。