山崎正男『陸軍士官学校』(秋元書房、1990年)によると、陸軍士官学校時代に外国語の成績が良かったものは、将校になってから出世しているという。また、陸軍大学校の卒業時に成績優秀だった人は、海外留学の機会を得られた。たしかに、将校は日本の外に出て活動するわけなので、語学の能力は必須だったのだろう。また、興味深いのは1888年から1936年の間の留学先はドイツが一番で、次がフランスそしてロシアであった〔図表〕。どこも陸軍大国なので当然であるが、軍隊組織や軍事戦略・戦術について大いに学ぶべきところがあったのであろう。今の日本人の留学先と比べると隔世の感がある。
学術の世界では法学分野でも圧倒的にドイツ語優位であった。当初明治20年頃まではフランス法がよく参照され、パリ大学教授のギュスタヴ・ボワソナードが招聘されてフランス法がよく学ばれていたが、明治憲法がプロシア憲法を範としたため、その他の法律でも徐々にフランス法からドイツ法に研究の中心は移行していった。筆者が学生時代の大学教員にも、まだドイツ語やフランス語が第一外国で、英語は第二外国語という方も多かった。ところが、第二次大戦後は、新憲法や、労働法、経済法などで英米法の影響を強く受けることになり、商法の分野でも会社法などではかなりアメリカ法の色彩が濃くなったために、英語が第一外国という人が多数派を占めることになった。実際、国際ビジネスに影響を与える国際取引法などは、アメリカ法を理解できていれば、ある程度の枠組みはつかめるのではないだろうか。保険法の分野もロンドンのロイズを中心に再保険取引が活発に行われるので、保険取引を理解するにはイギリス法は必須になる。
このように、外国語の選択は学習の目的に合わせて決めることになるわけであるが、今の日本において英語が選択されるのは、多くの人がビジネスに必要だからだと思われる。よって、語学を学ぶ目的を設定する場合、ビジネスの本質を理解するという課題を設定し、マーケティングを理解したい、会計を理解したい、財務を理解したい、ビジネス法を理解したいという強い動機があれば長続きする可能性は高まる。英語のために英語を学ぶというのは、言語学者や英文学者でもなければ、普通の人にとってはハードルが高い。よって、英会話学校はできるだけ早く卒業して、自分が理解したい専門分野を英語で学ぶようにしたほうがよいと思う。
専門書を読むのは大変なように思うかもしれないが、出てくる専門用語や言い回しにあるパターンがあるので、慣れればそれほどでもない。もちろん、書き手によっては、まったく歯が立たないという難しい書籍や論文もある。しかし、それは日本語でも一緒で、意図的に理解できないような日本語で書いたのではないかと思える学者の本もあるわけで、理解できないからといって悲観する必要はない。