職人的生き方の時代

自分だけの生態学的ニッチで生きる

16時間の空腹を確保する朝だけ断食

一日二食の生活を続けて10年以上経過しますが、体調は良く健康診断でも指摘事項はありません。10年前に比べると最近は、朝抜き断食や空腹の時間を16時間確保するなどの書籍が目につくようになりました。私が最近読んだだけでも、三浦直樹『"空腹"が健康をつくる』(ナツメ社、2020年)や青木厚『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム、2019年)、鶴見隆史『朝だけ断食で9割の不調が消える』(学研プラス、2015年)などがあります。

共通していえそうなことは、一日二食は食べすぎであり、江戸時代あたりまでは一日二食が普通であったということ。三食だと常に胃腸も含めた内臓が働き続けていることになり、休む暇がなく胃腸が疲弊すること。断食により腸内フローラが整い、免疫機能も活性化すること。10時間の空腹で脂肪が分解されはじめ、16時間でオートファジーが機能しはじめ、古い細胞が新しい細胞に生まれ変わること、などです。

このように、断食に関する多くの書籍が出版され、一般の人が実践しはじめると、食品業界の市場は量的に縮小してしまうのではないかと思います。これからの食品業界は質的に市場拡大することを志向する必要があるようです。そのような流れに抗するかのように、一日三食摂らなければいけない、という強迫じみた専門家の意見も出てくるわけです。しかし、断食によって健康を回復した事例や、難病が完治した事例など、枚挙に暇がないことを考えると、一食抜くぐらい実践して私たち一人ひとりが人体実験をして結果を検証してみたらいいのです。誰にも迷惑をかけるわけでもありませんし。

私が初めて断食を日常生活に取り入れてみる価値があるのではないかと思わせてくれたのが、甲田光雄『奇跡が起こる半日断食』(マキノ出版、2001年)に接したときです。甲田医師は半日断食の提唱者の中でも重鎮といってもいい方かと思いますが、多くの実績を残して、断食の効用について世の中に広めた第一人者だと思います。

一日三食でなければいけないという説にも丁寧に反論しています。現代の栄養学は、朝食を抜くとブドウ糖が不足し、脳の機能が低下するという理由で、朝食抜きに反対しています。そのエビデンスとして朝食を抜いている学生は成績が悪いという報告もされています。

甲田医師はこの点について、机上の空論に過ぎないと断言します。満腹と空腹のときと比べて、仕事や勉強の能率が上がるのはどちらかというと空腹のときです。お昼を食べた後に、頭がボーとして仕事がはかどらないという経験は誰でもしていると思います。空腹によってむしろ脳の働きが低下するどころか、かえって頭が冴えわたってきます。これはどういうことかというと、普通に食事をとっていると、脳はブドウ糖のみをエネルギー源として使いますが、食事を抜くと脳は別途、ケトン体をエネルギー源として切り替えるそうです。

このケトン体というのは、脂肪が分解されてできる物質ですが、断食をすると体内の糖分が尽きるので、脳は体内に蓄えた脂肪をエネルギー源として使うようになるのです。ケトン体をエネルギー源とした脳は、脳波の一つであるα波を増やし、脳下垂体からはβ-エンドルフィンという物質の分泌量が増えます。α波はリラックスの脳波で、β-エンドルフィンは快感物質といわれています。これらが増えることによってさわやかな気分になり、心が平穏になり、リラックスできるわけです。

宗教では心身の浄化のために断食を行いますが、それはこのような仕組みを経験的に知っているから取り入れているのかもしれません。心身の浄化のみならず体内の浄化にも有効な朝抜き断食であれば、誰でも手軽に取り組むことができると思います。最初は慣れるまでつらいと思うこともあるかもしれませんが、無理のない範囲でやってみる価値はあると思います。書籍などを通して頭で理解したことを、実践して体で感じることで、より深く断食の本質を理解できるようになると思います。