職人的生き方の時代

自分だけの生態学的ニッチで生きる

企業が儲けるために奪われる食の安全

日本の食の安全がなぜここまで脅かされているのでしょうか。各種規制が非常に甘く、農薬や食品添加物の氾濫について冷静に考えると、日本社会でこれだけ病人が増えているのはうなずけます。

手許にあるパンでもお菓子でもなんでもいいですが、表示をみるとショートニング、マーガリン、乳化剤、増粘多糖類など、長期継続的に体に取り込めば、それはおかしなことになるのが明らかな食品添加物がみられます。規制当局は当然危険であることはわかっていると思いますが、そのような物質を使用すること許さざるを得ない何らかの理由があるのでしょう。私企業からの圧力に公的機関は抵抗できないことがあるのかもしれません。

しかし、日本の食に関して、このような食品添加物や農薬の問題と同じか、それ以上に深刻な課題も存在していることが、鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書、2021年)によって指摘されています。それは農作物の種子の問題です。

まず、日本政府は、2018年に種子法を廃止しています。種子法は、コメや大豆、麦などの種子の安定的な生産と普及のために国が一定サポートするという法律でした。それを廃止したのは、種子の生産という分野に民間企業を参入させるためといわれています。

もう一つ、知的財産法の一種である種苗法が2020年に一部改正され、農家による種子の自家増殖について、種子育成をした企業である育成者の許諾が必要とされました。これでは、農家が自由に種子を生産できません。許諾を得られなければ、企業から種子を買う必要が出てきます。

このような背景を踏まえて、鈴木氏は、そもそも「種は誰ものなのか」と問題提起をします。私たち人類が何千年にもわたって守り育ててきたもので、各地域の伝統や食文化と密接な関係にある一種の共通資源のはずです。よって、種子は知的財産権には馴染まない性質のものであり、そもそも育成する権利は農家にあるといっていいと指摘します。

たしかに、新品種を育成するには、多くの時間、資金、労力が必要で、企業などの育成者がこれらの投下資本を回収できるようにするという、知的財産法としての種苗法の趣旨は理解できますが、それを人々の健康や国の安全保障にもかかわる種子に及ぼすのは問題ではないでしょうか。

その他、2023年から遺伝子組み換えでない表示の実質禁止が決まっております。これは、私たちから食品の選択肢を奪うことになります。そもそも、どの食品が遺伝子組換え食品で、どれが自然食品か判別できなくなるので、私たちに選択権がないことになります。また、農協の株式会社化もあります。これは協同組合だと買収できないので、株式会社にして農協の再編も容易にできるメリットがあります。さらに、遺伝子組換え食品とセットの除草剤(グリホサート)の輸入穀物残留基準値の大幅な緩和もあります。アメリカでは、遺伝子組換え種子とセットのグリホサートで発がんしたということで、グローバル企業に多額の賠償判決が出ているにもかかわらずです。

食の安全と引き換えに、経済を優先しているのが今の現状です。企業の利益のために、大切な食の安全および安定供給が奪われていることを認識しなければならいと思います。2018年には、ドイツの製薬会社のバイエル社が、遺伝子組換え作物に使用するグリホサートの除草剤で有名なモンサント社を買収しています。農薬や除草剤で危険な食品を食べて病気になり、薬を服用する。日本の病人を増やして、薬で治療すれば、この企業グループにとって、一度に二度おいしい、新しいビジネスモデルともいわれているそうです。

日本の規制当局は、日本人の病人を増やしたいなどと思っていないと思います。そんなことをすれば、自分たちや自分の家族も被害者になるはずです。それでは今、なぜ日本でこような不条理なことが進行しているのでしょうか。私には外圧しか想定できません。この辺の事情は詳細に検証することが必要だと思いました。私たちと、未来の子どもたちにも影響があることなので。