職人的生き方の時代

自分だけの生態学的ニッチで生きる

利益優先が主義つくり出す「しょう油もどき」

日本の食文化で世界に誇れる発酵食品がありますね。私も味噌としょう油は毎日のように口にしていると思います。そのしょう油について、市場経済を勝ち抜くためには、いろいろな工夫がなされていることを知りました。

安部司『食品の裏側』(東洋経済新報社、2005年)は、現時点で37刷というロングセラーということですが、なかなか考えさせられる記述がいっぱいありました。その中の一つに、私が毎日使っているしょう油の話があり、日本の食品業界についてがっかりさせられた内容がありました。

昔ながらのしょう油の原料は、大豆と小麦、塩、麹です。麹からつくられた酵素が、大豆や小麦のたんぱく質アミノ酸に、でんぷんを糖分に変えます。これがしょう油のうまみの素になります。この「うまみ」は実に多様で、甘みもあれば酸味もあり、こうばしい香りも出るということで、化学の力では解析できない味が醸し出されるといいます。この味を出すには、手もかかれば時間もかかるわけで、出来上がりまで1年は必要とのことです。

これをもっと早く、コストをかけずにできないか、ということで代替品の開発がはじまったということです。しょう油のうまみの素はアミノ酸ですが、このアミノ酸を時間をかけて発酵させなくても、大豆などのタンパク質を塩酸で分解することで、簡単につくることができます。こうして出来上がったアミノ酸が安価なしょう油のベースになりますが、これにはしょう油らしい味も香りも色もないそうです。

ところが、これをいかにも本物らしく仕立て上げるのが食品添加物の力になります。まず、グルタミン酸ナトリウム化学調味料)」でうまみを出し、「甘味料」で甘みをつける。酸味を出すためには「酸味料」も入れます。「増粘多糖類」を数種入れて、コクのととろみを出し、さらに色は「カラメル色素」で着色して、香りづけのために本物のしょう油を少し足します。とどめに、日持ちが悪いの「保存料」もというわけです。これが安価な「しょうゆ風味調味料」の出来上がりです。

このしょうゆ風味調味料は、昔ながらの本物のしょう油を「丸大豆しょう油」というのに対して、「新式醸造しょう油」などと称して売られているそうです。この二つの違いは、ラベルを確認すればわかります。丸大豆しょう油の原料は「大豆、小麦、塩」のみで、添加物はありません。一方、新式醸造しょう油は添加物がいっぱいで並んでいます。これはもうしょう油ではなく、「しょう油もどき」ですね。

最近では、有機大豆や小麦、遺伝子組換えではない大豆、小麦などにも気を遣う必要もあるでしょう。冷静に考えると、昔に比べて花粉症やアトピー性皮膚炎など、アレルギー性疾患が増えているのは当然なのかもしれません。日本の伝統食品をも化学の力で破壊してしまう、利益優先主義がはびこっているのですから。

私たち消費者ができることは、いくら安くてもそのような商品は購入せず、人の健康を害してまでも利益を追求する企業に対して距離を置くということなのかもしれません。