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私大推薦入試の惨状を知り国立大学志望へ

自分の三人の子どもたちが順次大学受験をする時期に来ています。三人とも大学には行きたいようなので、否定するつもりはありません。そんな時期にネットでみつけた、船橋伸一=河村振一郎『夢をかなえる大学選び』(飛鳥新社、2019年)を読む機会がありました。ある程度想定内の内容だろうと思いましたが、書評の評価が良かったので買ってみました。その内容は想定内のこともありましたが、意外な視点もあり、書評のとおり読んでみて正解でした。そこで得られた異なる視座は、私の長男へのアドバイスとしては手遅れですが、長女と二男への応用には十分間に合います。いくつか気づきを得た点をご紹介したいと思います。

まず、今の企業の採用担当者は、私立大学に総合型選抜(旧AO入試)で入学した学生を採用したくないと考えている点です。楽して難関大学に入っても、その時点で「難関」大学ではないということです。人事担当者は、たとえ有名私大だとしても、総合型選抜の学生を避けて、一般入試の学生を採用したいようです。結局、明らかに実力差があるということが経験的にわかっているのでしょう。問題は、どうやって総合型選抜であることを見抜くのかという点。この点、書籍からはわかりませんでしたが、人事担当者が面接のときにうまく聞き出すのでしょうか。

親としては、子どもに苦労させたくないと思うと、つい推薦入試でなどと思うわけですが、残りの長い人生をたくましく生きていく実力を身につけてもらうには一般入試をさせるべきだということがわかりました。ケースによっては、3月まで合格結果が出ない場合もあり、親としては落ち着きませんが、そこは我慢ということでしょう。

次に、私立大学総合型選抜入試の学生の中退率の高さです。地方国立大学では、1~2%ですが、私大の場合は30%を超える学部もあるそうです。入学してから授業についていけない、あるいはモチベーションが維持できないということでしょう。首都圏の有名私大のいくつかの学部でも、そのような現象が生じています。

そして、私が大学生になった1987年の大学進学率は25%でしたが、今は約55%にもなりました。1987年の18歳人口が200万人ほどでしたが、今は114万人ほどと減っています。ただ、1987年当時大学生になった人は50万人で、それに比べて今は62.7万人なので、実数では12.7万人増えたことになります。問題は、1987年当時の大学数は、474校だったそうですが、今や800校に迫る勢いです。大学入学者が12.5%増えた程度で、約330校も増やしていいのかということ。希望者全員が大学に入れるのは良いことですが、学ぶ意欲のない学生もとりあえず大学へということになっていないのでしょうか。

実際、著者の一人の船橋氏は、学生に「長野県は北海道にあるのですか?」とか、「"りいき"とはいったい何ですか?」とか聞かれたことがあるそうです。あとで詳しく聞くと「利息」のことだとわかったそうです。これが現在の大学生の実態なのでしょう。

親として思ったことは、残りの二人の子どもには、とりあえず最初は地方の国立大学を目指してもらおうと思いました(首都圏は難度が高すぎ)。五教科学ぶのは大変ですし、小論文が必要な大学も多いです。わが子を含めて多くの子どもが文章を書くのが苦手です。ただ、自分の考えていることを文章にして発信する能力は、大学でレポートを書くだけではなく、社会人になってからも仕事で必要になるでしょう。残りの人生で必要なスキルでもあるので無駄にはなりません。

自分が高校生のときに国立大学を志望し、途中で私立大学に変更しておきながら説得力はないかもしれませんが、幅広く学び、じっくりと自分の専門分野を探すのもよく、二人の子どもには、いったんは国立大学を目指すべきことを提案したいと思いました。考えてみると、高校生の段階で、学びたいこと、自分の得意なことなどわからないことが多いと思います。世の中にどんな職業があるのか理解している成熟した高校生は多くないでしょう。そう考えると、広く何でも学んでおくことは悪いことではありません。強みを生かして効率よく受験するというのも戦略的にあり得ますが、充実した人生を送るという長期戦略に立ち返ると、大学受験でしか通用しない効率重視の受験対策はいったん横に置いてもよいと思いました。