スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

日本は世界の大手食品メーカーの草刈り場

日本の食の安全は守られていないと思われます。守りたいけれど、守れないほどの圧力が、アメリカ政府を通して、グローバル企業からかかているのだと。そして、危険な食の多くが日本に押し付けられており、それを消費するのが日本に住む人々。

ここでいう危険な食とは、遺伝子組換え食品や大量の食品添加物、農薬を使用した食品、ホルモン剤で調整された肉など、冷静に考えれば、健康のためにも食べたいとは思えない食品です。日本においてこれだけ危険な食べ物を私たちが消費してしまう理由は、グローバル企業の圧力によって、日本の法律や各種規制が緩められているからでしょう。日本の政治家や官僚一人ひとりも、そのようなことはしたくないと思っているはずですが、組織に圧力がかかると抗しきれいないのだと思います。志の高い政治家や官僚に対しては、ある意味で気の毒な気がします。彼らだけを責めることはできません。

この辺の事情を詳細に分析した書籍に、鈴木亘弘『農業消滅』(平凡社新書、2021年)があります。鈴木氏は東大教授という立場でありながら、自らの良心の叫びに素直に従い、この書籍を執筆したのだと思います。なぜそう思ったのかというと、書籍の巻末に「本音の政治・行政用語の変換表」というユーモアを交えた付録があります。いくつか紹介しましょう。

国益を守る:自身の政治生命を守ること。アメリカの要求に忠実に従い、政権と結びつく企業の利益を守ることで、国民の暮らしは犠牲にする。

自由貿易アメリカや一部企業が自由に儲けられる貿易。

・自主的に:アメリカ発のグローバル企業の言うとおりに。

・戦略的外交:アメリカに差し出す、食の安全基準を緩和する順番を考えること。

有識者:はじめから結論ありきの意に沿う人々。

・科学主義:疑わしきは安全。安全でないと証明されるまでは規制してはならない。人命よりも企業を守る。対語は、予防原則=疑わしきは規制する。

農林水産省での勤務経験も生かしたこのユニークな変換表は、東大教授という立場からの発信であることを考えると、相当勇気が必要だったのではないでしょうか。しかし、それ以上に、日本の食に対する危機感が勝ったのでしょう。

鈴木氏は、日本の食料自給率が38%を下回り、3分の2以上を海外に依存するようになると、今回のパンデミックのようなことが引き金になった場合、各国で輸出規制が起きて日本が一気に破綻することを指摘します。現状をみても輸出規制は意外にも簡単に起こり得るわけで、そのような状況に対して日本は脆弱であります。これに対する解決策は、貿易自由化に歯止めをかけて、食料自給率を向上させるしかないことを提言します。

一方、世界貿易機関WTO)は、貿易自由化を徹底して、貿易量を増やすことが食料価格の安定化と食料安全保障につながるという真逆のことをいっています。誰が聞いても無理のある話で、貿易自由化がもたらしたのは、グローバル企業による市場の支配であり、発展途上国からの搾取や、世界の貧困の拡大というようなことではないでしょうか。結局は、WTOもグローバル企業の代弁者ということでしょう。そして、日本はまさしくグローバル企業の草刈り場であり、実験場でもあるのかもしれません。この辺の詳しい検証は、鈴木氏によって行われているので、また別の機会に紹介したいと思います。