スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

食の安全よりも生産性なのか

以前から食べたものが体を作るとは考えていたので、明らかに体に悪そうなものは避ける努力はしていた。パンデミックの前から食と免疫の関係にも興味があった。加工食品の表示をみればおそろしい数の添加物の名前が表示されており、一つひとつに意味があるのか疑問でもあった。

最近、明らかに日本の食は危険なのだということが理解できる書籍に接した。山田正彦『売り渡される食の安全』(角川新書、2019年)である。この書籍に登場する有名企業としてモンサント社がある。モンサント社が製造する除草剤は「ラウンドアップ」というそうである。日本ではホームセンターなどで簡単に入手できる。このラウンドアップには、グリホサートという成分が入っており、どのような植物でも枯らしてしまうことができる。

しかし、農作物を育てるのに除草が必要であるが、ラウンドアップを使うと、当然農作物もダメージを受ける。そこで、1996年には遺伝子組換え技術によって、ラウンドアップに耐性を持つ新しい大豆が開発された。つまりラウンドアップを使うことで、雑草のみ枯れ、大豆は育つというわけである。この話を読んだ瞬間に、生産性を上げるために、我々の健康を引き換えにしているのだろうかという不安がよぎった。そして、その不安が当たっている可能性もわかった。

アメリカ環境医学会は、遺伝子組換え食品と健康被害の間には、偶然を超えた関連性があると指摘している。特にアレルギーや免疫機能、妊娠や出産に関する生理学的、遺伝学的な分野で問題があるという。何とも本末転倒な話で、ラウンドアップという便利な除草剤を使うために、遺伝子組換え食品が作られる。その遺伝子組換え大豆やトウモロコシは、健康に悪影響があるという事例や研究結果が多数存在している。しかも、アメリカではラウンドアップなどのグリホサート製剤の暴露によってガンを発症したとるす訴訟が1万件以上も起こっており、そのうち何件かで原告側が勝訴して、モンサント社に数百億円の損害賠償責任も認められている。

黒田純子「除草剤グリホサート/「ラウンドアップ」のヒトへの発がん性と多様な毒性〈上〉」科学89巻11号(2019年)では、ラウンドアップなどグリホサート製剤の使用量と自閉症の増加が相関していることを紹介している。発がん性、生殖系への影響、皮膚炎、肺炎、血管炎なども挙げられる。そして、サウジアラビアクウェート、フランス、ドイツなど次々にグリホサートの使用を禁止する国が増えているという。一方で、日本は逆に2017年にグリホサートの残留基準を大幅緩和して、使用量が増えているそうである。モンサント社にとっては、是非とも開拓したい市場が日本なのかもしれない。

このように、遺伝子組換え食品や除草剤に対して警告を発する識者がいる一方で、それを否定する研究者も多い。しかし、食品は人が口にするものなので、あらゆる視点から分析して、危険性であるのであれば、その消費を中止すべきなのかもしれない。健康と引き換えに生産性を優先するという発想にはなれない。

つまり、予防原則に従って判断してもいいのではないだろうか。費用便益分析という経済優先の考え方は排除され、科学的確実性が欠如していても、人体への危険についてかなりの蓋然性があるのであれば、使用を中止するという判断があってもよい。そうしないと、また巨大企業が莫大な予算を使ってロビー活動や政治家への働きかけができてしまう。そして、危険な食品や除草剤が市場に流通し続け、一消費者としては抵抗しようがない。

しかし、政治や行政が一般消費者を守れないのであれば、個々人が学習して、自分で判断する必要がある。危険な食物は購入しないということも意思表示の一つのはずだ。遺伝子組換え食品にしても、遺伝子組換えワクチンにしても、まだまだ未知のことが多い。まずは、そこがスタート地点だと思う。我々人類は何もわかっていないということ。