スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

「自然死」を実践した偉大な医師

父が年齢を重ねて、人生の終わりに近づいてきたと感じたときに、平穏死や自然死に関する書籍を何冊か読みました。誰であろうと、自然な形で逝けるのが理想だと思い、病院で多くの管につながれて終わりを迎えるのは不自然だと思ったからです。

いくつか読んだ本の中で印象に残っている一冊に、中村仁一『大往生したけりゃ医療とかかわるな』(幻冬舎新書、2011年)があります。その中に自然死のしくみについての記述がありました。

自然死の実態は「餓死」「脱水」だそうです。「餓死」「脱水」といえば、非常に悲惨に聞こえますが、空腹なのに食べ物がないとか、のどが渇いているのに水がない、という状態とは異なります。死に際のそれは、命の火が消えかかっているので、お腹もすかないし、のども渇かない状態ということです。

「餓死」の状態になると、脳内にモルヒネが分泌され、いい気持ちになって、幸せムードに満たされます。また、「脱水」は、血液が濃く煮詰まることで、意識レベルが下がり、ぼんやりした状態になります。このように死というのは自然の営みなので、過酷なものではありません。不安や恐怖や痛みもなく、自然にあの世に移行できるということです。家族としては傍らにいて、大声で呼びかけたり、強く手を握ったり、揺さぶったりすることもなく、ただ見ているだけでいいのでしょう。

そんな中村医師はどうされているのかと調べてみると、昨年他界されていることを知りました。息子さんがブログで報告していました。

父 中村仁一が永眠いたしました。 - 自分の死を考える集い開催スケジュール掲示板 (goo.ne.jp)

しかも、書籍で書かれていたように、医療にかかわることなく、自然死を実践され、穏やかな最後だったようです。どんなに立派な医師でも、自分の死を目の前にすると、取り乱すこともあることでしょう。その点、中村医師は本物だったわけです。たしかに、書かれている内容や文体、表現を読めば、ご本人の信念や迫力が伝わってくるものがありました。自然死について確信があった方なのだろうと思います。