竹中平蔵氏のYouTubeチャネルの評判が悪い。日本の貧富の格差を作り出した張本人の一人といわれているが、さすがに多くの人が彼の考え方に辟易しているのだろうか。コロナ禍によって、貧困層はさらに窮地に追い込まれているので、なおさら竹中氏に批判的な人が多いのかもしれない。
そして、日本社会の高齢化が進み、高齢化が所得格差の広がる原因であるといわれている。また、コロナ禍をきっかけにベーシック・インカムの議論も盛んになってきた。そろそろ日本も貧富の格差の是正に取り組まなければ、手遅れになる、あるいはもう手遅れなのかもしれない。
井上誠一郎「日本の所得格差の動向と政策対応のあり方について」RIETI Policy Discussion Paper Series 20-P016(2020年)によると、日本で年齢とともに所得格差が大きくなる要因は、年齢とともに賃金格差が大きくなる傾向を反映しているためという。これは2000年代に入ってから、若年層を中心に非正規雇用が増えて、所得格差が拡大し始め、当時の若年層が壮年期、中年期に入りだしており、所得格差の勢いが加速しているためとのこと。
図表はOECDの統計であるが、各国のジニ係数を比較すると、オレンジ色の棒グラフの通り、日本はアメリカやイギリスに追いつきそうな勢いにある。OECD平均のジニ係数は0.315で日本は0.339であり平均を上回る。イタリアの経済学者の名前からきたこのジニ係数の値は0から1の間をとり、係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示す。明らかに北欧諸国は理想的であり、日本の数値をみるとかなり恥ずかしい気持ちになる。ちなみに、黒のダイヤは相対的貧困を表しているが、日本の全人口の10%が相対的貧困状態にある。
このような実態がある中で、各国の国民の意識を調査したInternational Social Survey Programme: Social Inequality IV - ISSP 2009によると、比較的所得格差が少ないフランスでも「自国の所得格差が大きすぎる」と考える人は、「そう思う」と「どちらかというと、そう思う」を合わせると91%もおり、ドイツでは89%いる。一方、アメリカはそのように考える人が66%しかおらず、イギリスでも77%しかいない。すなわち、アメリカやイギリスは所得格差が厳然と存在しているにもかかわらず、それを受け入れる傾向があり、フランスやドイツは所得格差を受け入れない傾向があるということになる。日本はどうであろうか。明らかにフランスやドイツより所得格差が存在しているにもかかわらず、78%の人のみが「自国の所得の格差は大きすぎる」と考えている。これは、日本がヨーロッパ大陸の影響よりも英米の影響を強く受けてきた結果なのかもしれない。
英米の影響を強く受けた日本社会は、「所得の格差を縮めるのは、政府の責任である」という意見についても、「そう思う」と「どちらかというと、そう思う」を合わせると54%しかいない。一方、フランスは77%、ドイツが65%、イギリスが61%であり、日本よりも高く、アメリカは33%で日本よりも低い。日本の54%以外の人、すなわち46%の人は誰が所得格差を是正すべきと考えるのであろう。
この結果を踏まえると、英米の影響を受け自助努力とか自由競争市場を掲げている日本社会では、ベーシック・インカムが機能しないように思われた。ベーシック・インカムは就労せず、納税していない者にも無条件で支給されるが、仮にベーシック・インカムを導入した場合に、就労せずに所得税を支払わない者が増えた場合はどうなるのであろう。
この場合、同額の給付を維持するには就労者の納税負担を増やすことになるので、納税者の理解が得られないのかもしれない。しかも貧困層にも富裕層にも一律に一定金額を給付しても、格差是正につながらない。むしろ生活必需品の値段が上がり、いずれベーシック・インカムでは最低限の生活も維持できなくなることにもなる。よって、ベーシック・インカムよりも、人間が生きていくうえで最低限必要な衣食住を満たす社会的共通資本の整備のほうが重要なのかもしれないと思うようになった。
正直、私には解を見出す能力はないが、もう何とかしなければならない、という思いだけはある。なんでも自己責任で済ませようとする日本は、あまりにも寂しく冷たい社会ではないだろうか。