職人的生き方の時代

自分だけの生態学的ニッチで生きる

経営者に向けたジョブ型雇用の提言

政策シンクタンクPHP総研「経営者が日本の働き方を変える」PHP研究所(2018年)の提言レポートは、めずらしく労働者目線の訓示的な内容だけではなく、むしろ経営者を叱咤激励するようなレポートで興味深い。

メンバーシップ型雇用は終わりジョブ型雇用に移行する過程で、経営者の責任として、率先して雇用システムを転換していくべきとしている。国の政策や法改正など待っている場合ではないと。そもそも、経営者がジョブ型でなければならないと指摘し、過去の経営者とは決別しなければならないとする。今までの日本の組織であれば、営業などの現場の仕事で成果を出してきた人が内部昇格を繰り返して、最後に経営者のポストについた。その大半が新卒でその組織に入った生え抜きである。しかし、抜群の営業成績はあっても、決算書の読み方など経営者としての基礎力が欠落していることも多い。経営者には財務、会計、法務、人事、労務管理、経営戦略、マーケティングなど様々な知識と経験が必要であるが、日本の経営者でそのような素養を持っている人は少ない。しかし、経営者のポストこそ、経営職という専門的なジョブの一つであるという。

そして、そのような専門性の高い経営者がいる組織では、離職率が低いことが優良企業の条件と考えるよりも、自らの組織の人材が社外でも通用できるのか、あるいは社会により多く貢献できる人材を育てているかで評価されると考えるようになる。これは、ある意味で学校と同じである。優秀な人材を輩出する名門校には、また優秀な人材が入学してくるのと同じように、優秀な人材を輩出できる企業には、また別の優秀な人材が入ってくるわけである。そのような企業の評判は、世の中にも知れ渡るわけで、良い人材は集まるし、顧客も喜んでその企業の商品やサービスを買うようになる。顧客もどうせなら優秀な人材と付き合いたいと思うので当然の帰結である。

このようなジョブ型社会では、企業と労働者の力関係も変化する。人材の流動性が高まると転職のリスクや不安が軽減されるので、労働者は組織に対する従属感から解放され、無理な働き方を強いる企業にとどまる必要はなくなる。そのような企業からは人材も離れていくし顧客も自然と離れていく。

今後、労働力不足が顕著になるとその傾向は加速していき、過剰労働を強いるブラック企業は労働力が確保できずに市場から淘汰される。とくに、インターネットにおける転職の口コミのサイトにおいては、点数で企業の評価がつまびらかにされるので、労働者に活躍の場を提供し、適正に評価して、その活躍に報いるような企業でなければ生き残れないであろう。また、労働者側も自分にどのように良質な経験と機会を与えてくれる企業なのか、という視点で組織をみて選択するようになる。とくに20代の若い人材は、次の30代、40代でどのような飛躍ができるのか、というイメージを持ちながら仕事を選ぶようになる。

たしかに、ジョブ型のプロ経営者でなければ、今後は企業経営などできるわけがないと思える。自分の組織の人材に過労死が出るような企業文化を作ってきたような人が、組織の頂点にいられるような時代ではないであろう。部下を酷使し、数字だけを追求して出世の階段を上がってきた人材に、今の複雑系のビジネスの世界では組織のかじ取りはできない。ESG(環境、社会、ガバナンス)、SDGs(持続可能な開発目標)、CSR(企業の社会的責任)など、今までの経営者のように勢いだけで理解し対応できるようなものではない。やはり経営者こそジョブ型人材の時代である。