わが国では、解雇権濫用法理によって雇用の維持が最も尊重され、一方で労働条件の柔軟な変更が認められ、企業内部で柔軟性を維持して調整がなされるという。そして日本の対極に位置するアメリカは「随意雇用(employment-at-will)」契約で解雇はなんら条件もなくでき、余剰人員の整理も容易である分、労働市場に柔軟性があるとされる。このような背景をもとに、荒木尚志氏の『雇用システムと労働条件変更の法理』(有斐閣、2001年)では、日本の労働市場を内部労働市場型、アメリカを外部労働市場型であるという整理がなされている。
よくアメリカの映画やドラマで、即日解雇され段ボールに自分の私物を入れてオフィスを去るビジネスパーソンの姿が見られるが、あれはアメリカの随意雇用契約のためである。このようにアメリカでの解雇は容易であるが、労働訴訟を避けるため、会社からの従業員への解雇通知は休暇前やクリスマス前は避けるべきであるとされる。また、終業時間に近いタイミングで伝えることで他の同僚の前でのきまり悪さも避ける配慮も必要になる。このようなアメリカの随意雇用契約の源流は自由放任主義にあるとされ、政府が企業や個人の経済活動に干渉することなく、市場原理に任せることにしたためである。もちろん、アメリカの労働市場がより望ましいとは思われないが、日本においてもその傾向は顕著になっていくであろう。とくに企業内失業といわれるように、外部労働市場を活用しない日本企業の場合、なんとか企業内の人事異動や子会社や取引先への出向などの形態によって、雇用を必死で維持しているわけである。しかし、その日本企業もそろそろ体力の限界にきているのかもしれない。
このような環境を前に私たちができることは、やはり他者ができないこと、他者が知らない分野を極めるしかない。自分の専門分野を確立して他者に貢献する。そして、自分の専門以外の分野に関しては他者の支援を得る。この相互補完関係が必要になってくる。組織の外の人とも大いにつながり、大きな仕事を成し遂げていくことが必要になる。他者にできないこと、他者が知らないことを極めるのは競争とは少し異なる。専門分野が細分化された現在、意外に自分の隣の分野のことを知るのは時間がかかる。しかし、自分の専門分野に関しては、地球の裏側までいっても情報を取り調べる。当該分野に関して極めるのは、もはやビジネスパーソンというよりも「職人」といえるであろう。これからはホワイトカラーも職人を目指すことになる。