職人的生き方の時代

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書評: 國部克彦=後藤玲子編著『責任という倫理』

6名の専門家による國部克彦=後藤玲子『責任という倫理』(ミネルヴァ書房、2023年)を恵贈いただき、読了したので、書評です。

責任という概念について、経営学会計学、経済学、法学、哲学など各分野の専門家による分担執筆です。内容は深く、読み手にとって難しいですが、おそらく書き手にとっても困難な執筆作業だったのではないかと思われます。

全体的に、法の経済分析やゲーム理論に素養があり、哲学的・思想的な訓練を積んだ人であれば、理解は大いに進むかもしれませんが、それ以外の人には難しい面もあります。しかしそのような専門知識がなくとも、各分野の第一人者が、学術的な分析道具を使用し、今回のパンデミックを検証しようとすると、総じて良心などの道徳的な価値観に依拠し、弱者への配慮のもとに行動するといった倫理的な価値にたどり着いていることに気がつきます。

現代社会は、科学を過剰に信じ、依存する傾向がありますが、どうも科学と道徳あるいは宗教は統合されていく必要があるのかもしれません。あるいは、自然にそちらの方向に進んでいるのでしょうか。科学を使って徹底的に分析するうちに、人間の内面の問題に行き着いている。どの著者も科学的・学術的な分析手法で、ある程度まで責任を論じるものの、どこかで限界にたどり着き、次の価値観が必要になり、新たな次元の議論に展開していきます。そういう意味では、すべての執筆者は、自分の専門領域に踏みとどまることをせず、果敢に外に打って出ているようにみえます。

また、一読者としては、これだけの専門家が理論的に緻密な分析をしているのに、明確な答えが一つ出ないということに、むしろパンデミック期間中の真実が見出せます。当時の専門家による断定的な発言や提言が、いかに軽く、迂闊なものであったかということを思い知らされるわけです。本書の各分析・理論の十分な理解ができなかったとしても、その真実を知れただけでも価値がありました。