将来、論文博士の制度が廃止されるのかどうか、という議論がある。私見は存続させてよい制度だと思うが、文系に関してはほとんど利用されていないか、各大学で受け付けていないのではないかと思う。自分も経験者としていえるが、どこの大学もほとんど門前払いといった感じであった。
一方、筑波大学大学院に法学と経営学で早期修了プログラムがあり、最短1年で博士号を取得できる制度があった。また、名古屋市立大学大学院にも経済学で同じく早期修了プログラムが存在する。これらの制度は、論文博士を断念した人にとっては試してみる価値がある制度ではないかと思う。
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博士課程早期修了プログラムについて - 名古屋市立大学経済学研究科/経済学部 (nagoya-cu.ac.jp)
筑波大学大学院の法学のケースだと、早期修了プログラムに入学できる要件の学術論文数について、「2編以上の査読付き論文相当。ただし、うち1編は10万字程度の分量があること」とある。この場合、10万字程度の論文を掲載してもらえる学術雑誌が少ないので、分割して掲載していただくのか、書籍として出版していることになるのだろうか。いずれにしても、この10万字の論文をベースに博士論文を完成させるのであれば、論文作成作業の流れとしては理想的である。
次に筑波大学大学院の経営学については、「学術誌に掲載された査読付き論文2編以上」とある。法学が「査読付き論文相当」となっているのと比較して、「査読付き論文2編以上」とあるのでハードルが高いが、これはその学問の世界の慣習が影響しているのだろうか。法学分野で、あまり査読付き論文というのをみかけないが、経営学の場合は一般的なのであろう。
最後に名古屋市立大学大学院の経済学のケースは、「査読付学術論文1編以上」とある。これも経済学の世界のことは詳しくないが、査読付き論文を提出できる学術誌が多く、その機会があるのであろう。
いずれにしても、このような博士課程の早期修了プログラムを活用する人は、入学前にほぼ論文を書き上げている人で、入学後は、追加論点の加筆や誤りの訂正、日本語表記の統一など、最終の仕上げを1年かけて実行するというような人に向いていると思う。すなわち、すでに論文博士を試みた人にとっては最適な制度で、敗者復活の機会となるわけである。
ただ、問題は二点あり、一点目は大学院に入学するわけなので、論文博士のように審査料が10万円や20万円で済みますというわけにはいかない。国立の筑波大学大学院であれば、通常通り初年度納付金は817,800円である。公立の名古屋市立大学大学院の場合、名古屋市民でなければ、初年度納付金は867,800円となる。もちろん、それに加えて入学検定料も必要である。
二点目は、自分の専門分野の論文を審査してくれる教授がいるのかどうかということである。これが一番大切なポイントではないだろうか。自分の書いた内容の分野に知見があり、興味を持ってもらえる方なのかどうかということ。たとえば、私の専門分野は大きな括りでは商事法であるが、その中の保険法であり、さらには責任保険であり、そして会社役員賠償責任保険(D&O保険)ということになる。もちろん、会社法が専門の方でも、保険法を知っている人はいるであろうが、保険法が主というのは少ないかもしれない。自分の経験からすると、自分の興味と合致する教授をみつけられるのが一番のカギになるハードルだと思われる。
このような前提で考えると、日本全国の大学院から、自分の論文を審査してくれる教授を探せることが理想であり、筑波大学大学院と名古屋市立大学大学院ではまだ数が少なすぎると思われる。自分が知らないだけで、他にもあるのかもしれないが、早期修了プログラムを採用する大学院が増えることで、社会人でも文系の博士号をめざせる環境が整うことが望まれる。