スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

転職市場のリクルーターは人生の伴走者

人材紹介会社の活動は1990年代後半から徐々に活発になってきたと思われる。実際に登録すると、想定される転職後の年収が提示されるサービスがあったと記憶する。当然、人材紹介会社としては伝統的な日本企業にしがみつく優秀な人材に転職を促し、自分たちの手数料を稼ぎたいので、高めの想定年収を提示して登録者をその気にさせることになる。人材紹介会社の手数料は、一人紹介に成功すると転職先の企業から年収の20%から30%の手数料が入るわけであるが、常に新しい人材を発掘して転職してもらわないといけない狩人型のビジネスなので、人材紹介業もそれなりに大変の職業である。

そして、筆者が属していた損害保険業界でも1990年代後半から始まった自由化の流れと相俟って、多くの人がとりあえず人材紹介会社に登録した人も多かったことであろう。しかし、当時安定していた損害保険会社を辞めて転職するという選択肢を選んだ人は、そんなに多くはなかったと思う。ただ、2000年前後から急激に損害保険業界の合併が盛んになり始めて、当時、20社以上あった損害保険会社はどんどん数が減っていった時期には、人材紹介会社に藁をもつかも思いで頼り、多くの人材が意を決して転職に踏み切ったのだと思う。

ちなみに、筆者が社会人になったのは1993年であるが、当時PCなどないので、20社以上ある各社の人事部への資料請求は手書きの手紙であった。そして、ほとんどの会社からは何ら返事はもらえなかった。なんとも失礼な業界だったと思う。しかし、そのくらい傲慢な姿勢でもそれなりの人材が集まった時代でもあったのだろう。各企業にはまだ指定校制みたいなものがあったと記憶する。一方、今の学生はネットでエントリーができて、社数も減ってしまったので楽ではあるが、その分選択肢も減って大変な面もあるのであろう。

話を元に戻すと、人材紹介会社のコンサルタントのことをリクルーターというが、もともとアメリカで兵隊を採用する専門人材のことをリクルーターといっており、その言葉が転じて、人材紹介会社のコンサルタントをリクルーターと呼ぶようになっている。ヘッド・ハンターという呼び名もあるが、ここではリクルーターと統一しておく。

そのリクルーターであるが、人材紹介会社の規模やバックグラウンドによって様々なタイプの人がいる。よって、自分に合うリクルーター、あるいは的確な助言をくれるリクルーターに巡り合うことが大切である。そして、常に2、3人とお付き合いしておくとよい。また、20代のときと30代のとき、あるいは40代のときではお付き合いするリクルーターは変わるであろう。それぞれ、年代やポストのレベルで専門性や得意分野が違うのでだと思われる。また、大手の人材紹介会社よりも小規模か個人でリクルーターをしている人のほうが、鋭く厳しいアドバイスをしてくれるので、気づきを得られて良いはずである。

「一流大学を出ているとか、英語ができるとか、MBAを取りました、くらいで良い転職ができると思わないでください!」

などという辛口の発言がポンポン飛んでくるくらいが、目が覚めるのでちょうどよいであろう。大手人材紹介会社のリクルーターであれば、大手であるがゆえに、起業家精神の旺盛なリクルーターは珍しいからといのもあるかもしれない。また、今の時代であればリンクトイン(LinkedIn)などを通じて、香港やシンガポールのリクルーターともつながっておくとよい。とくに外資系企業の場合、日本のポストでありながら海外から提案されることもあるからである。

このように、20代のとき、30代のとき、あるいは40代のときと、自分の人生に伴走してくれるリクルーターをつくっておくことは、いざというときに心強いはずである。また、リクルーターは当然自分の手数料を稼ぎたいので、様々な案件を提案してくるが、自分が転職するタイミングではないときは単に断るのではなく、その案件に合致しそうな知人を紹介することも大切である。自分で俄かリクルーターになるのである。あるいは、職探しをしている友人・知人がいるのであれば、どんどん信頼できるリクルーターにつなげばよい。そして、どんどん転職市場を活性化させるぐらいのことをしても良いわけである。

そのようにしてリクルーターと付き合っていくと、自分がだんだん年齢を重ねてくるにつれて、今度は自分が採用する立場になる機会がある。ある意味で、自分が転職するより採用する方が、難易度が高いという面もあるが、過去に行ってきたリクルーターとの付き合いを通じて、業界のどこにどのような人材がいるのかわかるようになり、人材の採用においてもプラスになることがある。業界の人材をある程度把握し、自分が採用しなければならない立場になったときには、この人とこの人には必ず声をかけたい、という人材のデータベースはある程度持っておくことも必要ということである。