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博士号のない教授のための「論文博士」制度

松野弘氏は『サラリーマンのための大学教授の資格』(星雲社、2014年)のなかで、大学教授になるには博士号が必須であり、社会人教授についても博士号の取得を要件とすべきことを提言する。専門的・学術的な教育を受けておらず、博士号はもちろんのこと、修士号さえも持っていないテレビでおなじみの元キャスターが大学教授になっていることに疑問を呈し、社会人教授といえども博士号を取得すべきという。しかし、そもそも大学設置基準が緩和された際に、大学の教授資格についても以下の通り変更になっており、かなりあいまいな資格要件になっている。参考までに教授と准教授の資格要件の該当条文を掲載しておく。

 

(教授の資格)

第十四条 教授となることのできる者は、次の各号のいずれかに該当し、かつ、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者とする。

一 博士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、研究上の業績を有する者

二 研究上の業績が前号の者に準ずると認められる者

三 学位規則(昭和二十八年文部省令第九号)第五条の二に規定する専門職学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、当該専門職学位の専攻分野に関する実務上の業績を有する者

四 大学において教授、准教授又は専任の講師の経歴(外国におけるこれらに相当する教員としての経歴を含む。)のある者

五 芸術、体育等については、特殊な技能に秀でていると認められる者

六 専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者

 

(准教授の資格)

第十五条 准教授となることのできる者は、次の各号のいずれかに該当し、かつ、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者とする。

一 前条各号のいずれかに該当する者

二 大学において助教又はこれに準ずる職員としての経歴(外国におけるこれらに相当する職員としての経歴を含む。)のある者

三 修士の学位又は学位規則第五条の二に規定する専門職学位(外国において授与されたこれらに相当する学位を含む。)を有する者

四 研究所、試験所、調査所等に在職し、研究上の業績を有する者

五 専攻分野について、優れた知識及び経験を有すると認められる者

 

教授の資格要件は、上記6条件の「いずれか」に該当すればよいことになり、結果的に博士の学位がなくても大学教授になれることになる。とくに、人文社会科学系では大学院の博士課程を修了しても博士号を取得できないケースがほとんどで、40代、あるいは50代になってから、過去の研究の蓄積の集大成として博士論文を書き上げることがあったり、あるいは、大学を定年退職するときの総仕上げの意味で博士論文を提出して学位を得ることがあったりする。この辺の事情も配慮するとこのような緩やかな資格要件にならざるを得なかったのかもしれない。

そして、松野氏のいうように博士号がないと教授になれないという博士号に固執した厳しい要件を課してしまうと、多くの大学で教授不足に陥ることになる。一方で松野氏が指摘することも道理であり、日本の大学では博士号のない教授が博士論文を審査するという奇妙なことも起こるわけである。

よって、もしある大学で教授を採用した場合、あるいは教授に昇進させた場合は、たとえば5年以内に当該大学で本人に博士論文を提出させて、審査後に論文博士として博士号を授与するというシステムにすることにすればよいと思われる。少なくとも、博士号と同等の資格があると大学側で判断して採用あるいは昇進させたのであれば、大学が責任をもって博士号を授与することでよいのではないであろうか。もちろん、本人が博士論文を提出することが最低限必要であるが、そうすることで、多くの大学の教授が博士号取得者ということで事態は徐々に改善されていくことであろう。当然、その博士論文は最低限の質と形式を兼ね備えていることが必要である。