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「論文博士」は廃止されるのか

将来的に論文博士は廃止されるという意見もあるが、どうなのだろうか。

2005年6月13日、文部科学省中央教育審議会の総会で大学院改革に関する中間報告「新時代の大学院教育 - 国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて - 」の中で「論文博士の在り方の検討」という箇所があり、次のような記述がみられる。少し長くなるが、重要な議論なので該当箇所を全て引用する。

「大学は、博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し、博士の学位を授与することができるとされており、これにより授与する学位のことをいわゆる「論文博士」と呼んでいる。

  • これについては、1.学位は、大学における教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として大学が授与するものという原則が国際的にも定着していること、2.国際的な大学間の競争と協働が進展し、学生や教員の交流や大学間の連携など、国際的な規模での活動が活発化していく中にあって、今後、制度面を含め我が国の学位の国際的な通用性、信頼性を確保していくことが極めて重要となってきていることなどを考慮すると、諸外国の学位制度と比較して我が国独特の論文博士については、将来的には廃止する方向で検討すべきではないかという意見も出されている。
  • 一方、この仕組みにより、大学以外の場で自立して研究活動等を行うに足る研究能力とその基礎となる豊かな学識を培い、博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認められる者に対して博士の学位を授与することは、生涯学習体系への移行を図るという観点などから一定の意義があると考えられる。
  • また、博士学位授与数に占める論文博士の割合は減少傾向にあるものの、他方で、企業、公的研究機関の研究所等で相当の研究経験を積み、その研究成果を基に、博士の学位を取得したいと希望する者も未だ多いことや、論文博士と課程博士が並存してきた経緯を考慮することも必要である。
  • これらのことを踏まえ、論文博士については、学位に関する国際的な考え方や課程制大学院制度の趣旨などを念頭にその在り方を検討していくことが適当である。
  • なお、論文博士の在り方の検討に当たっては、相当の研究経験を有している社会人等に対し、その求めに応じて大学院が研究指導を行う仕組みの充実などを併せて検討することが適当である。その際、例えば、博士課程短期在学コースの創設等の検討や、現在、日本学術振興会において、アジア諸国を対象とした「論文博士号取得希望者に対する支援事業」が実施されていることとの整合性についても留意することが必要である。
  • また、論文博士については、戦前の博士号のイメージを引きずった碩学泰斗型のもの、企業の技術者等がその研究経験と成果を基に学位を取得したもの、教育研究上の理由等により標準修業年限内に学位取得に至らなかった者がその後論文審査に合格して学位を取得したもの、といった性格の異なるタイプのものが混在しており、今後、その在り方を検討するに当たっては、これらについて考え方を整理した上で適切な取扱いを検討することが必要である。」

諸外国に比較してわが国の論文博士の制度は異質なので廃止すべきであるということである。この点、諸外国の制度が普遍化できるほど均質なのかと考えると、国によってかなり異なると思われる。たとえば、ドイツやフランスの高等教育などは特殊な発展を遂げており、アメリカの制度とはかなり異なっている。おそらく、この報告書にいう諸外国がどこを指しているかというと英語圏のみであろう。なぜ、英語圏の制度のみを参考にして、「諸外国の学位制度と比較して我が国独特」といえるのか疑問である。また、諸外国に迎合して制度を変更する必要はなく、論文博士の水準と質さえ維持できていれば論文博士という貴重な制度を残してよいのだと思う。