職人的生き方の時代

自分だけの生態学的ニッチで生きる

ピラミッド型組織は危機に弱い

これからの時代に合った組織とはどのような形態なのでしょうか。時代も相当変わり、想像もつきませんが、計画的で規則性がある組織というのは、実は弱いのではないかと思います。

むしろ、無計画で規則性がなく、自然発生的にできたネットワークの方が強いのではないでしょうか。それはもう「組織」ではなく「ネットワーク」です。トップがいるわけではなく、中心もありません。権限とか、職務範囲、社内規則もないわけです。いくつかの事例をみてみると、ピラミッド型組織に脆弱性があることがわかります。

オリ・ブラフマン=ロッド・A・ベックストローム『ヒトデ型組織はなぜ強いのか』(ディスカバー・トゥエンティワン、2021年)によると、たとえば、約500年前にスペイン軍は、中央集権型のアステカ帝国インカ帝国を征服しましたが、その後、アパッチ族には敗退しています。

アパッチ族は分散型で首長がおらず、その代わり、複数の精神的・文化的リーダーがいました。また、首都もなければ中心となる司令塔もなかったため、いたるところで意思決定が行われたそうです。1人のリーダーを殺害しても、新たなリーダーが現れ、戦いは永遠に続き、最終的にスペイン軍の作戦は失敗に終わっています。

これと似たような事例が、安富歩『満洲暴走 隠された構造』(角川新書、2015年)にありました。今から90年以上前の満洲は、中国では珍しくネットワーク性が低くて、ピラミッド型の県城経済システムが支配の構造だったそうです。よって、関東軍が乗り込んで、ピラミッドの頂点から下に支配すれば、簡単に制圧できました。

県城というのは、古代中国の県の役所を守るための城のことです。それに対して中華民国は、分散型ネットワーク社会だったので、県城と鉄道を支配してもどうにもなりませんでした。ゲリラはどんどん村に引っ込んで延々と戦い続けます。いずれ関東軍も疲弊し、消耗して音を上げたというわけです。

たしかに、組織力という言葉あるように、組織化された人たちはベクトルを同じ方向に向けることができるので強いというのはあるでしょう。しかし、トップが誤った判断をした場合は、組織全体が壊滅的なダメージを受けます。

福島原発第一原発の事故でも考えさせられることがあったと思います。当時の現場の所長である吉田昌朗氏は、東京電力本店からの指示に従わず、炉心を冷やすために海水注入を継続しています。もし命令のとおり海水注入を止めていたらどうなっていたか。

事実関係は不明で、情報も十分開示されていないので断定はできませんが、組織のトップや本店が判断を誤るということはいくらでもあると思います。そのとき、危機管理の観点からピラミッド型組織は望ましくないのかもしれないということです。