カオス理論を学ぶと自分の学問にも謙虚に向き合えるので有用です。酒井敏『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書、2019年)に文系の人にもわかりやすくカオス理論が解説されているので一読してみてください。
カオス理論で有名なのは、アメリカの気象学者のエドワード・ローレンツです。彼の研究によると、天気予報において方程式に代入する初期値が少し異なるだけで答えに大きなバラつきができました。「少し」の違いが「大きな」バラつきを生むところが重要です。
このことを理解するのに「電卓カオス」が役立ちます。6つの電卓にある数値を入力し、2乗して2を引くという計算を繰り返します。すると途中から電卓ごとに値が変わってしまいます。最終的にはどの電卓もバラバラのデタラメな答えを出します。これは電卓ごとの有効桁数が違うことによる現象だそうです。
カオスについては、「ブラジルで一匹の蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こる」という表現が有名で、「バタフライ効果」と名付けられています。地球上のどこかで羽ばたく蝶や鳥の動きをすべて把握できないように、温度や対流などの強さを完璧に知ることができません。
正確な値を知るということは、無限に続く小数点以下の数字を見極めるということです。それは今の技術では不可能なのではなく、原理的に不可能ということになります。
結局、この世界は明確な因果関係で成り立つ機械のようなものではなく、原因と結果のつながりが必ずしもはっきりとわからない「カオス」ということです。このカオスを受け入れると、まず科学的に絶対正しい理論など存在しないことになります。
わたしの専門である法学分野でも、まるですべての可能性を知り尽くしたように議論を展開し、他者の過ちを糾弾する人もいます。たしかに、学問として必要な場合もありますし、弁護士は裁判においてそのようなアプローチが必要なことがあります。
しかし、カオスのような不確実性があることが、この世の中の本質であることを理解できれば、もう少し違う態度やアプローチもとれるように思いました。科学が進歩したことはいいことですが、すべて科学で因果関係を解明できることはないことが、カオス理論で証明されているわけなので。