「ブラジルで一匹の蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こる」というのは、バタフライ効果といわれます。アメリカのエドワード・ローレンツという数学者で気象学者がいった言葉ですが、数学的な説明は難解なので省略いたします。
それを簡単に説明すると、方程式を解いても答えが決められないということを説いた言葉でした。なぜ答えが決められないかというと、最終的な計算結果が方程式に代入する初期値に大きく依存するからです。最近の例であれば、コロナ対策をしなければ40万人死亡するという大外れの予測を出した大学教授がいましたが、あれなども典型的なバタフライ効果の事例ではないでしょうか。
地球上のどこかで羽ばたく蝶や動きをすべて把握すのが不可能なのと同じように、温度や対流の強さなど初期値を完全に知ることはできません。小さな初期値の差異で計算結果が大きく変わるので、未来の予想は不可能ということです。今の技術では現実的に不可能なのではなく、原理的に未来予測は不可能ということになります。
そして、現実の世界は「カオス」なわけです。カオスな世界ではXとYの因果関係等は明確ではありません。ブラジルで羽ばたく蝶のような現象が無数に存在するのがこの世です。ですから未来の予想など当たるはずがない。自分の未来に不安を感じても仕方がないとも解釈できますね。そう考えると気楽になります。
「○○の成功法則」とかのタイトルで本が出版されることもありますが、カオスの世界では万人に当てはまる成功法則は存在しないことになります。同じような努力をしたのにもかかわらず成功していない、と文句をいっても始まらないわけです。大小様々な要素が人の成功に影響しているわけです、そのような要素をすべて忠実に再現するのは不可能なわけです。
そして、酒井敏『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書、2019年)によると、カオスの世界において、この因果には偶然の要素も含まれることがあるといいます。酒井氏は著名な地球流体力学の専門家です。私にしてみれば、そのような生粋の科学者が、最後は「結果オーライ」なので、適当にアホなこともしておきなさいといってくれるのは大変嬉しい限りなわけです。
何でも頑張れば報われるわけでもなく、頑張っていなくても偶然の要素のおかげで成功する、あるいは生き残れることもあるわけです。この世界は生存競争で必死にならざるを得ないようにみえます。でも適当にアホで無駄なことをしていても、成功することはあるということでしょう。このことを知ってから、生きることが少し楽になった気がします。