榊󠄀素寛「企画の趣旨、保険法研究者のキャリア・パス、そして保険法研究の概要」損害保険研究86巻1号に接しました。博士課程時代の指導教授ですが、興味深い視点で若い学生を保険法研究者に誘う内容になっていました。
そもそも保険法研究者とはどんな人でしょうか。むかしは商法の一部に保険法がありましたが、今は独立して「保険法」という法律が存在しています。そして簡単にいうと保険会社と保険契約者の間の契約を規律する法律ということになります。その保険契約を研究する人が保険法研究者といえるでしょう。また、保険契約は契約といっても保険約款という特殊な契約になります。
また、保険業法というのもあり、監督官庁が保険会社を規制する法律でこれも保険法の中に含めることができますので、保険業法も含めて研究していることが多いと思います。
実は私も保険法が専門でありながら、学部の学生時代に保険法の講義を受講していません。専任の教員はいましたが興味がなかったので受講していないのです。大学院の修士課程では専任の教員も講義科目もなかったので受講できませんでした。よって、実際の保険法に触れたのは、損害保険会社に入社した後ということになります。
そして、榊󠄀教授の論文で興味深いと思ったことは各大学で保険法を教えることができる教員が不足していて、保険法にプラスして会社法を教えることができるのであれば、これからは職を得やすい分野だということです。採用する側の大学からは口をそろえて「人がいない」という愚痴が出るそうです。
おそらく、その「人がいない」というのは、まだ給与を低く抑えて採用することができる若手研究者の意味だと思いますが、それでも法科大学院に通じた法曹業界に人が奪われ、研究者としては不足気味なのかもしれません。
また、保険法は司法試験の試験科目ではないので、その点、法曹の人にとっても馴染みがないともいえます。自動車事故の解決などで弁護士の活躍の場は常にあるにもかかわらず。よって、法曹出身の人材が保険法研究者になるのも難しいようです。
保険法研究者の世界はこのような状況なわけですが、それではということで、私も手を挙げて保険法研究者の世界に参入しようかというと、かなり無理がありそうです。理由は大学教員が国立であろうと私立であろうと忙しすぎるという実態が感じ取れるからです。原稿の締切もおおむねギリギリで提出する人が多いし、ビジネスマンに比べて納期管理が甘いです。というより、忙しすぎて間に合わないのでしょう。
また、年々国の予算が削減されて教員の報酬も伸びないようです。優秀な人材が海外の大学に移籍するといいながら、予算削減では無理もありません。あれだけの仕事量、すなわち研究と教育の二本立てで、しかも学内行政もあるのであれば、今の年収の1.5倍は確保しないと割に合わない職業ではないでしょうか。それでも何とか成り立っているのは、現在の大学教員に献身的な努力のおかげだと思います。
国立大学の授業料値上げの件が話題になっていますが、医療費が過去最高を更新し、運営費交付金等の教育費が削減されるところに、国の優先順位が見て取れます。政治にとって利があるのは医療なのでしょうね。残念です。