スペシャリストのすすめ

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ジョブ型雇用が日本に浸透しないある理由

ジョブ型雇用が日本社会で浸透しにくい状況が続いています。その理由が二つあると思います。その一つに、経営者がジョブ型雇用を理解していないことです。もう一つが、ジョブ型雇用の旗振り役であるはずの人事部が、ジョブ型人材ではないということがあります。

まず経営者ですが、日本の経営者は、経営のプロ人材ではありません。日本の場合、従業員という雇用契約の状態で、同じ会社に所属しながら出世をしてきた人が、そのまま経営者になるというのが一般的です。経営者になったとたんに、会社との委任契約になりますが、突然マインドを切り替えることはできないですし、委任契約の法的な理解もほとんどできていないと思われます。

委任契約といのは、弁護士が顧客と契約するときに締結するものと同じ法的性質で、雇用契約とはまったく別物です。会社に対して、善管注意義務や忠実義務を負います。会社の利益と自分利益が対立した場合、自分の利益は捨てなければなりません。「捨てるべきだ」ではなく、捨てなければならないという「義務」です。

このような基本的認識を欠く経営者は多いと思います。それは役員報酬の開示規制に現れます。会社法が改正されるたびに、いつも議論になりますが、役員個人の報酬額を開示することに関して、強い抵抗があります。プライバシーの侵害だという理屈がよく出されます。しかし、会社の資金の出し手である株主との関係では、会社の資金使途の開示として、役員報酬を開示することはプライバシーの侵害ではありません。

さらに考えると、上場会社という「公共の器」としての性質を持つ組織の経営者は、自分の報酬額を開示することによって、適正な評価にさらされるべきともいえます。悪いことをしているわけではないのですから、正々堂々と報酬額を開示し、評価されてもいいのではないでしょうか。しかし、現実は違います。報酬額は開示せず、業績と報酬の検証から逃れるわけです。そのような経営者が従業員に対して「これからはジョブ型雇用だ!」といっても迫力がないでしょう。誰も従いません。

そして、人事部ですが、こちらも多くの人がジョブ型人材ではないので、どのようにジョブ型雇用を導入すべきかわかるわけがないと思います。メンバーシップ型で最後まで会社にお世話になろうという方が楽なはずです。自身も人事部から人事異動によって、数字で厳しく評価される営業部にいつかは戻るかもしれないと思えば、メンバーシップ型で、みんな仲良くの方がいいに決まっています。これでは、ジョブ型雇用が浸透するわけがありません。

そして、多くの人は、ジョブ型雇用が導入できない阻害要因をいくつも探してきて言い訳として使います。この点は、日本のビジネスマンの得意分野ではないでしょうか。できない理由を探して、できる方法を探さない。毎日忙しい業務を遂行し、忙しい自分に酔う、ということが永遠に続くわけです。

日本の労働市場はどうしたら変わるのでしょうか。おそらく今のままでは変わらないでしょう。唯一変わるとするなら、多くの企業が経営破綻しだして、経営者が責任追及訴訟を提起され、労働者が労働市場に投げ出されたときかもしれません。そのような悲惨な結末を誰も望まないわけなので、手前で手を打てばいいのですが、残念ながら人は痛い目に合わないと変われないものだと思います。

一方、痛い目に合っても、他人のせいにして、周りを批判している人が多いのも事実ですので、それでも変わらない可能性はあると思います。日本の良いところでもあり、悪いところでもあるでしょう。