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大手経済紙を購読する価値はなくなった

大手経済紙の調査能力はいかほどのものでしょうか。大学生の頃、就職活動のために購読すべきであることがいわれました。よって、自分も当然購読していました。企業側の面接官も読んでいるし、話題になった時に対応できるようにということなのでしょう。

しかし、経済紙に掲載されている記事は、ミスリーディングなことが多く、内容も浅いので、私は読む価値があったのか疑問です。経済界全体で、経済紙を読むべきだという雰囲気を醸成して、販売部数を確保しているというのが、実際の背景なのではないでしょうか。

たとえば、2023年1月31日の日本経済新聞によると、「役員賠償保険値上げ続く」という記事があり、保険料率が5年で2.7倍に上昇し、気候変動をめぐる訴訟の増加で、今後の上昇の可能性があるといいます。この記事は真実でしょうか。過去の事情も事実か疑わしいし、今後の予想はミスリーディングです。

まず、役員賠償責任保険の保険料上昇のピークはもう過ぎており、少しずつ落ち着いてきています。しかも世界的には保険会社の新規参入で供給過剰になり保険料が下がりだしています。新聞社が取材して記事にしようと企画してから時間が経過したので、少しタイミングのズレた記事になったのでしょうか。

そして記事の内容は、日本企業も気候変動訴訟のリスクが高まると煽ります。見せかけの環境対策、すなわち、「グリーンウォッシュ」によって、虚偽記載の訴訟が増えることが懸念されるといいます。

しかしこれは、外資系の保険会社が役員賠償責任保険のニーズ喚起のために使われるマーケティング材料であり、それが記事になってしまっただけです。不実開示で金商法違反だというのは、理論的にはあり得ますが、日本ではそう簡単に訴訟は起きないと思います。

このように、業界の情報を鵜呑みにしたのか、それとも意図的にリスクを煽り、保険のマーケティングをサポートしているのかわかりませんが、実態を知るものにとっては、何か特別な意図が働いて、このような記事が出てくるのかと勘繰りたくなりました。こうなると、その他の記事についても疑わしくなり、経済紙といえども経済の専門家ではないということが推察できるわけです。

昔、経済紙のインサイダー取引の記事に「チャイニーズウォール」と表記すべきところを、「ファイヤーウォール」と誤用していたことがあり、会社の上司がクレームの電話を入れていたことがあります。そんな電話を経済紙にかける上司もどうかと思いましたが、経済紙の記者といえども間違えるわけです。時間に追われて校正の暇もないのでしょう。

本来、証券会社の引受部門と営業部門の間に、不正な取引を回避するために設けられる情報障壁は「チャイニーズウォール」なわけです。ファイヤーウォールは、銀行と証券の垣根のことです。毎日、大量の情報を記事にして、次々と取材をこなす記者の大変さというのも理解できますが、経済紙の記事の質はこのような水準になります。

私も過去に一度だけ、役員賠償責任保険について取材を受けたことがあります。自分のコメントが記事になり、はじめて自分の名前が日本経済新聞に掲載されたことで、知人に賞賛されたことがあります。しかし、新聞が発刊される前に、記事の内容を確認することは許されず、誤っていようと修正や訂正することはできませんでした。このような状況ですから、記事の信頼度も疑わしいわけです。それを大学生に読めと煽るわけですから、まっとうな仕事といえるか疑わしいとも思えます。

それでもニーズがある限り、新聞という業界は存続するのでしょうが、さすがに代替のメディアも出てきているので、今後も必要性があるのかわかりません。大学生が読む分にはいいでしょうが、社会人が読む価値はほぼなくなってきているのではないかと思いました。