スペシャリストのすすめ

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博士号をお金で買うのはどっち

理系の世界では、論文博士のことを「お金で学位を買う」といことがいわれることあるようです。企業の研究職の方が、産学協同の過程で、提携先の大学の論文博士制度を使うからでしょう。たしかに、数十万円の審査料は支払うので、お金で学位を買っているようにみえます。

しかし、文系の世界は明らかに違います。私の感覚では、論文博士のほうが2倍から3倍は難易度が高いのではないでしょうか。それは、2018年に論文博士制度を利用しようと、いろいろな方に相談させていただいた経緯からわかったことです。

まず、ある商事法の重鎮といわれる方にアドバイスをもらったとき、課程博士とは異なり、論文博士は格段に難易度が増すことを指摘されました。当然のことながら、内外の先行業績の紹介はもれなくされていることにとどまらず、従来のアプローチとは異なる新しい角度からの分析・解明が説得的に展開されていることが必要であり、当該学問分野の従来の研究水準を格段に前進させるものと評価されなければならないということでした。

そして、もしそのような論文として判断される場合は、そう評価した先生が主査となり、博士論文審査委員会によって、5名の審査委員が選任されます。その中には、当該分野が専門の教授のほかに、大所高所から意見を述べる専門分野の教授が一人審査委員に入ることもあるそうです。

これを聞いただけでひるんでしまいます。また、これらのことは各大学院の規則などに明文化されているわけではなく、形式上は課程博士も論文博士も同じ水準なはずです。にもかかわらず、どこの大学でも不文律があるのか、過去からの申し送り事項なのか、求められる論文の水準は、論文博士のほうがはるかに高いことになります。

よって、理系における論文博士の「お金で学位を買う」というのは、文系には当てはまらず、むしろ大学院に進学し、学費を支払ってお金で学位を買うのは課程博士の方になるともいえます。