スペシャリストのすすめ

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小麦に含まれる「グルテン」が問題である理由

最近、小麦の弊害について解説する書籍が増えています。今まで小麦を食べることで健康を害することがわからなかったのか、わかっていても一般書籍として出版することが難しかったのかどちらなのかと思うことがあります。

書籍も医師が書いたものが多く、学術論文を参照して記述しているので、学術の世界では以前から小麦の弊害は知られていたのでしょう。もしこれらの指摘について正しいと思う人が増えて、小麦を含んだパンやパスタ、うどん、カレーなどを食べる人が少なくなると、食品業界は大打撃を受けることでしょう。ただ、そのことに気づいて実践する人は少数派だとは思いますので、食品業界にそれほどの危機感はないと思いますが。

たとえば、内山葉子『パンと牛乳は今すぐやめなさい!』(マキノ出版、2017年)によると、臨床経験からパンを食べるのをやめると、疲れ、肥満、腸トラブル、うつ、湿疹なが改善するといいます。牛乳の弊害と合わせて説明する本書では、多くの論文を参照しつつ、その理由を解説します。簡単にいうと、パンと牛乳を摂取すると腸内に未消化物が増えるため、その受け皿として内臓脂肪が増えてしまい、体のあちこちで炎症を起こすといことです。

そして、その原因物質が小麦に含まれるたんぱく質グルテンになります。グルテンは人体に害となる多くの作用を持っており、中毒症状を引き起こすとされます。よって、パンを食べると、またパンを食べたくなり、やめられなくなります。一方、パンのフワフワ感やモチモチ感、うどんのコシもグルテンによって生まれるので、消費者に好まれるための重要な役割があります。

しかし、このグルテンは、長年の小麦の品種改良などによって、ますます私たちが持っている消化酵素では消化しにくいものへと変化しているそうです。体内で未消化物として残るものは、我々の免疫システムが異物と判断して攻撃する抗体を作ってしまうことになります。これが小麦アレルギーを起こす原因になります。

また、本間良子『長生きしたけりゃ小麦は食べるな』(アスコム、2020年)という過激なタイトルの書籍によると、小麦をたくさん食べると腸にカビの一種であるカンジダが増殖するといいます。そして、腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスが乱れ、免疫機能が働き、増殖してしまったカンジタを激しく攻撃するようになります。その結果、腸内の粘膜まで傷つけてしまうといことです。

腸の粘膜の細胞が傷ついて炎症を起こし、その細胞に隙間ができることで、腸壁にごく微細な穴があくことになります。そこから、腸内にいる細菌や毒素、未消化の食べ物などがもれ出て全身にめぐるようになり、様々な不調を引き起こすことになります。これがいわゆる「リーキーガット症候群(腸もれ症候群)」です。この腸もれを治すために、小麦を食べることをやめて、腸にあいた穴を塞ぎ炎症を抑える必要があるわけです。

さらに、最近出版された福島正嗣『朝食にパンを食べるな』(プレジデント社、2022年)でも小麦は消化されるとエクソルフィンというモルヒネに似た構造式の成分が生成され、脳にあるモルヒネの受容体と結合することで依存症が生じると指摘します。これが小麦をやめたくてもやめられない厄介な仕組みなのかもしれません。アルコールや大麻、ニコチンの同じなのでしょう。

福島医師は胃腸科の専門ですが、寿司を食べた5時間後に内視鏡で胃の中の様子をみると、寿司ネタは消化されているのに、お米は残っているそうです。パンやお米のような炭水化物は消化が悪く、肉や魚のようなタンパク質は消化が良いということがわかっています。

そして、その理由は、700万年の人類の歴史の中で、我々が農耕をはじめたのは1万年前とすると、699万年は穀物を大量に食べることはなかったわけです。それまでは、狩猟によって肉や魚、あるいは木の実やクルミ、ナッツなどを食べていたのでしょう。福島医師の指摘から冷静に考えると、私たちの体は大量に炭水化物を摂取するようにはできていないのかもしれません。

そして、これらの書籍に接してから、自分自身が1ヵ月ほど小麦を食べないようにしてみました。たしかに、体は軽くなり、皮膚の炎症など解消されているようです。皮膚の炎症に悩んでいた娘も2週間小麦を絶った時点で、かなり症状が改善されてきました。人体実験としてはかなり成果を実感できます。

あらゆる病気の犯人を小麦に押し付けるのは酷ですが、グルテンと様々な病気に因果関係があるのであれば、私たちはグルテンフリーの食材を選ぶ努力をしていくとよいと思います。すでにヨーロッパでは、かなりグルテンフリーのパンやパスタが普及していて、スーパーでも手軽に入手できます。これは消費者が市場を変えたという実例です。日本は値段を優先して、添加物など気にせずに食材を選ぶ傾向がありますが、せっかくお金にはエネルギーがあるのですから、より良いものにお金、すなわちエネルギーを使うことで、食品業界に働きかけていくことも大切だと思います。