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ワクチン懐疑派の論文は意外に多い(4)

Neil Z. Miller, Miller's Review, Miller’s Review of Critical Vaccine Studies (2016) を読んでいると、現在一部で騒がれている新型コロナ・ワクチンへの懐疑的な議論が、実は昔から存在している他のワクチンについても当てはまることに気づきます。新型コロナ・ワクチンの議論に注力していると、陰謀論で片づけられがちですが、実は延々と過去から問題提起されてきているのに、ほぼ無視されてきたか、議論が活性化しないように封じ込められてしまっていたのかもしれません。

まず、産業界が学問を支配していることを証明する論文をみてみましょう。

Tereskerz PM, Hamric AB, et al., Prevalence of industry support and its relationship to research integrity, Account Res 16(2) 78-105 (2009)

産業界のスポンサーシップが科学研究にどのような影響を与えるかを知るため、米国のトップ研究機関33校の医学部教員528名を対象に匿名調査を実施しました。本調査では、医学研究者の3分の2(67%)が何らかの産業界の支援を受けており、32%が給与の一部が産業界から支払われていることを認めました。教授は准教授に比べ、研究助成金コンサルティング契約、ロイヤリティ支払い、共同事業ベンチャー、実験設備、その他様々な金銭的取り決めなど、産業界の支援を受ける傾向が顕著です。そして、研究のために産業界の支援を受けた回答者のうち、61%は、論文原稿の出版前審査を産業界のスポンサーに認めていました。また、多くの人が、スポンサーの製品に有利な方法で結果を発表すること、結果の公表を遅らせるとか、完全に差し控えることに同意しているということです。さらに、研究データの解釈、研究成果の発表、研究分野の科学的進歩のすべてが、産業界の支援によって損なわれたとする回答も高い割合を占めています。  

次に、今は忘れられたインフルエンザ・ワクチンに関する論文をみてみましょう。

Geier DA, King PG, et al., Influenza vaccine: review of effectiveness of the U.S. immunization program, and policy considerations, Journal of America Physicians and Surgeons 11(3) 69-74 (2006)

この研究では、18年間のデータを分析し、アメリカ人にとってインフルエンザ・ワクチンは、インフルエンザを予防する効果も、入院や死亡を避ける効果もないと結論付けています。インフルエンザ・生ワクチンを接種した人は、副作用のリスクがあり、また、妊婦や免疫力の低い人など、接触した人に感染させる可能性があります。よって、インフルエンザ・生ワクチンの接種者は、3週間程度、免疫不全者との密接な接触を避けるように警告されています。

Abramson ZH, What, in fact, is the evidence that vaccinating healthcare workers against seasonal influenza protects their patients? A critical review, Int J Family Med 2012, 205464 (2012)

この論文では,患者を守るために医療従事者にワクチン接種を義務付ける政策を支持するエビデンスを評価するために,関連するすべてのインフルエンザ研究を調査しています。まず、すべての医療従事者にインフルエンザ・ワクチンを義務付けることを正当化するために保健当局が引用する研究は、極めて欠陥が多く、そのような勧告は偏ったものであるということです。そもそも、患者が地域診療所の医療従事者と短時間出会っただけで、インフルエンザに感染するリスクが大幅に増加するという証拠はありません。また、医療従事者にインフルエンザ・ワクチンを接種することが、患者にとって明らかに有益であるという信頼できる証拠はなく、このような政策は不健全であり、科学的文献によって裏付けられていません。医療従事者は、法的、組織的、あるいは同僚からの強制を受けることなく、インフルエンザ・ワクチン接種を受け入れるか否かを自由に決めることができるべきなのです。

このように、インフルエンザ・ワクチンに関する論文においても、今の新型コロナ・ワクチンの議論と同じことが争点になっていたりします。以前から丁寧に議論を積み上げていれば、今回のような混乱は起きなかったのかもしれませんが、残念ながら新型コロナ前は、世界的な議論を巻き起こすには問題の規模が小さすぎたのでしょう。そういう意味で、今回この機会を逃さず徹底的にあらゆるワクチンというものについて分析評価する時期なのだと思います。ここでご紹介しきれない膨大な数の論文が存在しているわけなので、検討の素材としては十分ではないかと思います。あとは、その中に分け入って調べるか調べないかだけの問題なのでしょう。