スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

戦争はいつも情報戦からはじまる

第二次世界大戦後に、戦前と戦中に出版された書籍に対して、GHQが主導して焚書が行われていた。日本の歴史的な真実はかなりかき消され、その後の日本人が過去の事実を知る手段を奪われてしまったといことである。当時、日本が戦争をはじめた理由や、戦前の日本の置かれた状況など詳しく知ることができない日本人は、私も含めて日本が戦争をした悪い国という印象で刷り込みが行われたのだと思われる。

西尾幹二GHQ焚書図書開封』(徳間書店、2008年)で紹介されている、武藤貞一『英國を撃つ』(新潮社、1932年)の内容を知ると、第一次世界大戦におけるイギリスのプロパガンダについて理解できる。武藤氏によると、イギリス側が、ドイツ軍が婦女凌辱や小児殺害といった蛮行を続けているデマを流して、ドイツ軍の悪を世界に宣伝したという。武藤氏は、1892年生まれの軍事外交評論家で、戦後も活躍されていたようである。

結局、イギリスがドイツ軍の蛮行を非難する写真をでっちあげてプロパガンダに精をだしていた。第一次世界大戦からすでに宣伝戦が存在し、非常に効果をあげていたのである。この宣伝戦に乗ってしまったのが、アメリカの大学教授や平和団体、宗教家といったインテリで、イギリスのプロパガンダに踊らされて、真偽の分別もつかずに、むやみに騒ぎ立てたそうである。そして戦争が正当化されて参戦へと流れる。これは今も変わらない風景ではないだろうか。

西尾氏も指摘するが、湾岸戦争ときに、油まみれの鳥の写真がばらまかれたが、それが、やらせであった。あるいは大東亜戦争中も中国の赤ん坊を線路上に放置した写真をアメリカの有名な雑誌が掲載し、日本軍の蛮行をアピールするものの、それが合成写真であったことが後で発覚した。このような事例に接すると、第一次世界大戦から現在まで、人類がそれほど進歩していないのではないかということに驚く。

私自身、何よりも驚いたことに、インターネットがなかった時代に、すでに情報戦が功を奏していたという事実、またそのような情報戦が、反戦気分の市民を一気に好戦的で過激な市民に変えてしまうことを当時の軍事外交評論家は熟知していたということがある。武藤氏の分析力たるや相当なものであったと推察できる。

私たちは大量の情報を入手できる時代になったが、その中から真実を見抜くことが難しいことを考えると、むしろ第一次世界大戦当時より、現代は本物の情報を入手することが困難になっているのではないだろうか。ウクライナ紛争における情報戦に世界中の人は巻き込まれているということは認識すべきであるし、それを踏まえると迂闊な判断や決めつけは危険であるということは十分承知しておくべきであるということであろう。