スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

社会人の戦略的な文系博士号の取り方

博士号に挑戦するのは何歳からでもいいという。吉岡憲章『定年博士』(きづな出版、2020年)によると、吉岡氏は2012年に修士課程に入学し、2019年に博士号を取得するまで、壮絶な経験を経ていることがわかる。博士号取得時の年齢は77歳で、MBA取得時が73歳である。ご本人の努力は想像を絶するものがあったと思う。

この体験談を読んでいると、博士号の取得のハードルが相当高く、普通のサラリーマンが挑戦できるものではないように思えてくる。博士号取得のステップも、学会発表審査、査読付き論文審査、論文最終審査と説明されている。論文の内容も新規性、有効性、了解性、信頼性が必要とされる。

ただ、前述のステップにある学会発表審査、査読付き論文審査などは、必ずしも必須条件ではないと思う。おそらく吉岡氏が社会人大学院生ということで大学院執行部側から設定された特別なハードルではないだろうか。普通の大学院生にこれらの高いハードルが課せされ、それをクリアしなければ博士号を授与できないという決まりにはなっていないと思われる。たしかに、簡単なことではないが、誰でも一定の努力を積めば博士号取得は可能である努力水準だと思う。大学院によって異なる基準があると思うので事前確認をしておくとよい。

吉岡氏のように、修士課程から博士課程に直接進むと、最短で修士2年、博士3年の合計5年間の学びの期間があることになるが、社会人の場合、この5年間で修士論文と博士論文の2本を書くのはかなり難しいのは事実である。そこで、戦略的に修士課程が終わった時点でいったん休息期間を置き、博士論文の構想を練り、ほぼ博士論文ができあがってから博士課程に進むというのも考え得る方法である。

なぜそのように思うかというと、修士課程も博士課程も、論文作成以外に授業も受講しなければならないわけで、これがかなり負担になることが想定されるからである。特に博士論文の内容は、ある一定レベルの水準は維持できていないと学位審査も通過できない。やはり修士と博士のレベルはかなり違う。たった3年間で授業も受けて論文も書くというのは、かなり難度が高いであろう。

自分が経験して感じるのは、授業は他の大学院生と一緒に受講するので、自分の発表が毎週あるということではないが、本当に自分の専門のど真ん中の内容ではないことが多く、ゼロから調べなければならないことになる。これは社会人にそれなりの負担になってくるであろう。自分自身、博士課程など論文を書いて終わりという認識でいたので、この授業を取るということは負担を感じたのは事実である。よって、博士課程入学前に、かなり博士論文の構想は固めておき、ある程度書き上げておくことが無難だと思う。

いずれにしても人によって事情は異なるので、やり方やとり得る戦略は違ってくると思うが、誰にでも挑戦できる方法があるはずなので、あきらめずに独自の道筋を探すことを提案したい。