職人的生き方の時代

自分だけの生態学的ニッチで生きる

「ジョブ・カード」で自分にレッテルを貼る

ジョブ・カード制度は、2008年に制度導入されたもので、職務経験や学習歴、職業訓練歴、学歴、免許、資格などを記入していく履歴書のようなものである。履歴書と何が違うのかというと書式が決まっていて、その書式にそって自分のことを記入していくことになる。書式は厚生労働省のホームページから専用のウェブサイトに入って入手することができる。主に非正規雇用者やフリーター等の職業経験の少ない人に、自分の過去の経験や強みを棚卸してもらい、将来のキャリア・プランについて考えてもらおうというものであるが、あらゆる人に活用価値があるものである。ただし、残念ながら2010年の民主党政権のときに事業仕分けの対象となり、その後、あまり普及していないようである。

そもそも事業仕分け人の考えは、雇用促進の効果に疑問があるとか、ジョブ・カードの必要性は極めて疑わしいとか、就職・転職に結びつかない、とかいうもののようであるが、そもそもメンバーシップ型の中でぬくぬく育ってきた人にその価値はわからなかったのではないか。そして、その人たちが自分でジョブ・カードを作ろうとしたら、何もないのでスカスカのジョブ・カードになったのかもしれない。

おそらく、日本のメンバーシップ型組織で正社員として働いてきた人は、書式を埋めるのに苦労するであろう。メンバーシップ型の人は、自分で正社員か非正規社員かを選択する機会もなく新卒で会社に入った。自分でどの職務を選ぶかを考える余地もなく業務は会社からあてがわれた。どこで働くかも選べず人事異動で日本全国あるいは世界各国に飛ばされた。結局、自分で人生設計をしてきていないので無理もない。研修は会社が提供してくれるしポストも会社が用意してくれる。黙っていても何かしら与えてくれるのがメンバーシップ型の良い点だったし悪い点でもあった。自分が自分の人生の創造者になれないのがメンバーシップ型である。一方、ジョブ型の人は正社員か非正規社員か、どの職務に取り組みどれを捨てるか、どの土地で働き生活するかなどの人事異動を自分で決めることができる。どうするかというと転職するだけである。あるいは起業するだけである。非常に自由度が高い。メンバーシップ型は非常に居心地がいいであろうが、メンバーシップ型が崩壊したときには対応できないリスクがある。よって、自分からメンバーシップ型は捨てるというのも生き方である。あるいはマインドだけでもジョブ型に修正しておくとよい。自分はジョブ型であると決めておけば、職場で追い詰められることも減るであろう。切り札を持っているものは危機に強いからである。また、そのときジョブ・カードは自分の進行方向を確認するのに役立つので作成しておいてもよい。

結局、ジョブ・カードが必要かどうかは別にして、ジョブ・カード制度の理念は活用価値がある。書式を同じにする必要はないが、自分の価値観、興味、強み、やってみたい仕事などを書き出して、自分で気づきを得ることは大切である。ある意味イメージトレーニングで過去の経験や学習の棚卸をして、将来の自分をイメージし、そうなっている自分を過去形で思うことで、本当にその将来が実現することはある。自分のあるべき姿を思い描き、自分がどんな人間で、どのようなことに興味があり、どの分野の専門家なのかのレッテルを貼ることになる。そして、そのレッテルに合わせるように自分を仕向けていく。結論ありきで、後から理由をつけ足していくようなものである。また、自分にレッテルを貼ったら一生涯それをぶら下げていくわけであるが、いつでもそのレッテルは修正したり変更したりできるようにしておくのも必要である。常に能力やキャリアは進化するからである。いずれにしても自分のレッテルを労働市場に登録し自分を売り込み、企業側も候補者を選別して採用するような透明性のある労働市場の形成は、これからの傾向になるのではないか。