ありがたいことに、自著の『先端的D&O保険』(保険毎日新聞社、2019年)で、2020年の日本保険学会賞(著書の部)をいただいた。日本保険学会というのは250名弱の研究者と500名強のその他大学関係者以外の人が会員になっており、社会科学系でもかなり古い伝統のある学会で、2020年には80周年を迎え日本最古の文科系学術研究会だとのこと。しかし、学会活動の活性化にはいろいろ苦労さているようであった。そして、オンラインであったが受賞のあいさつの機会があったので、一企業実務家として次のようなことを申し上げた。
「すでに産学共同のようなこともあるかもしれませんが、もう少し小規模なレベルでも連携を考えてよいと思います。たとえば、アカデミック・アドバイザーというのは学生に助言をすることをいうのでしょうが、企業に学術的な助言をするアカデミック・アドバイザーもあるかと思いました。」
社会科学系の研究者は現場で何が起きているのか知る機会が少なく、どうしても研究室における文献調査に研究の比重が置かれやすい。一方、実務家は日々の業務を回すのが精一杯で、現場の課題に対してじっくり検証する機会が少ない。実はこの両者が相互補完関係を築けば、社会の発展に寄与する提言ができる機会は多いはずなのだが、そのような場が少ないのが課題となる。
それでは、どのような連携の仕方があるのだろうか。ひとつ考えられるのは弁護士とおなじように顧問契約というのがある。情報のやり取りの中で企業の機密情報を扱うこともあるかかもしれないので、機密保持契約も結んでおいたほうがよいかもしれない。弁護士は弁護士法で守秘義務を負っているので不要であるが、研究者の場合は念のため必要であろう。もちろん、企業側から情報を出すときもできるだけ研究者の情報管理の負担を軽減するために不必要な機微情報は削除する、あるいは情報を客観化して提供するなどの工夫は必要であろう。
ただ、筆者の業務を考えても知的財産権などの取り扱いはないので、それほど機密性が要求される情報はなく、社会科学系についてはそれほど神経質にならなくても問題は発生しないと思われる。大事そうに秘匿しようとしているアイデアや情報に限って、それほどでもない情報のことが多い。そもそも、保険や金融ビジネスの場合は、ビジネス・モデル以上に、誰がそのビジネスを実行するかのほうが大切で、他社が真似をしようとしても、最初から緻密に事業化調査した人でなければ実行段階で成功しないことのほうが多い。よって、法学、商学、経営学、経済学の分野では積極的に研究者との共同はしやすいといえる。しかも弁護士と違いビジネスを前提に考えなくても、研究者として研究素材が提供されると考えれば、顧問料などはかなり安価でも許されるであろう。組織の現場の部長クラスが簡単に決裁できる金額で十分ではないか。企業の規模にもよるが、年間10万円以下でも研究者にとっても企業にとっても十分価値のある情報交換は可能かと思われる。あまり巨額な予算を受け取り、研究者が企業の奴隷のようになっては元も子もないので。