在宅勤務のメリットは時差を克服することだといえる。今まで、日本時間の朝9時から夕方5時までの時間帯でしか国際電話ができなかったと考えると、大きな制限といえる。おそらく、夜遅くまでオフィスに残る、あるいは朝早く出社するなど工夫をしていたと思うが、今は自宅からWeb会議で十分である。これだけでも、労働者の奴隷解放は進んだといえる。筆者の場合、オランダのロッテルダムとの会議であれば、日本時間の16:00にしてもらいロッテルダムは9:00スタートになる。イギリスのロンドンとの会議であれば、日本時間17:00がロンドンの9:00になる。帰宅時のラッシュを避けるために会議の時は、かならずオフィスではなく自宅から参加している。アメリカのニューヨークとの会議は難しいが、それでも、日本時間の朝7:00でニューヨークが18:00にしておけば可能である。先方は夕食前で、こちらは朝早く起きて準備していれば十分可能な時間調整になる。
以上の通り時差を克服できるメリットが在宅勤務にあるが、最大のメリットは世界中の複数のスペシャリストと一回で議論を済ますことができることである。あるとき、シンガポールの保険ブローカーと打ち合わせすることにした。相手にテーマを伝えると、ロンドンとニューヨークのスペシャリストを手配してくれた。時間は日本が6:00、ロンドンが前日の22:00、ニューヨークは17:00である。シンガポールは気の毒に朝の5:00であるが、先方も在宅勤務であれば、会議の後に寝ればいい。筆者は、朝型人間で毎朝4:00起きなので、通常業務の範囲内である。このような時間設定は大歓迎だった。今まであれば大げさに国際会議と称して世界中からロンドンに集まったり、シンガポールに集まったりして会議をしていただろう。それはそれでよかったが、在宅勤務を前提にするとかなり合理的に国際業務は遂行できることになる。しかも、世界中の知を集めて問題解決に挑むことが可能になり、イノベーションは起こりやすいのではないかと思う。少なくとも世界中の仲間と全員参加型のプロジェクトが容易になったのは間違いない。
もしかしたら、ジェネラリストが生き残る道は、世界中のスペシャリストを適宜アレンジできることかもしれない。しかし、実は世界のどこに、どの分野の専門家がいるのかを知り、声をかければすぐに対応してくれる関係性というのは、自分が何かのスペシャリストでなければ構築できない。つまり、彼らに何か必要なものを持続的に提供できている必要がある。結局、長期的なギブ・アンド・テイクの関係性がなければ、そのようなアレンジを継続することは難しい。よって、そのジェネラリストと思われた人も、結局、スペシャリストなのである。スペシャリストしか生き残れない時代に、自分の中にある知見と経験を、どのような時間軸で、どのように組み立てていくか、これからの重要な課題だといえる。いわゆる、日本でいうところの「会社員」は消えるのである。