スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

幸運を期待しつつニッチ分野を見つけるには

自分の専門とするニッチ分野はどのように選んだらよいのだろうか。基本的に自分が情熱を感じる分野で、学びが心地よいと感じることが望ましい。長く継続学習できるためには好きな分野でなければ続かない。いくつか自分でワクワク感を感じられる分野が見えてきたら、今度はどれにするか絞り込む必要がある。

たとえば、筆者の場合は法学でとくに保険法やビジネスに関する法が専門になる。その中でも中心となるテーマは会社役員賠償責任保険(D&O保険)という一般的にはあまり知られていない保険になる。この保険を学ぶと都合がよく、会社法金融商品取引法、労働法、倒産法、独占禁止法、信託法、国際取引法など、あらゆるビジネスに関連する法律を学ばざるを得なくなる。このテーマを選んだのは2000年代前半であるが、まだ誰も気にしないかなりマイナーな保険であった。

ところが時代が変わり、2019年に改正会社法が成立し公布された。この改正法の中にD&O保険の規定が織り込まれることになったのである。当然、法が改正される数年前から法改正に関与していると思われる方々は、いろいろと活動を活発化させていたので、法改正にまったく関係のない私にも、座談会や書籍の出版の話がくるようになっていた。なぜ、このような誰も気にしない分野の保険のことについて、いろいろ知りたがるのか不思議であったが、しばらくすると会社法にD&O保険の規定が盛り込まれることがわかり、謎が解けた。2000年代前半からコツコツと学んできたことが日の目をみた感じである。私の場合はとても運がよかったといえる。何となく好きで研究していたD&O保険が、会社法というビジネスの世界でとても重要な法律に規定されたわけである。とにかくラッキーだったとしかいいようがない。

それでは、どのように幸運がやってきそうなニッチ分野を見つけるのだろうか。正直にいうと答えはない。どんなに戦略的に考えてもどんなに未来を予測しても、10年、20年先を見通すことは難しい。やはりできることといえば、静かな情熱が溢れ出る分野に取り組むことしかないのである。10年、20年継続できるキーとなるドライバーはなにか。結局は学びが心地よくストレスを感じないワクワク感に従うしかない。そして、それが自分の本業になっていれば、実務経験を通じていろいろ複雑な課題に取り組むことができるようになる。よって、会社に対しても自分の専門分野は何かをはっきりと示し、その分野の仕事を任せてもらうのが一番である。もし会社の制度として異動や転勤のない専門職あるいはスペシャリスト職というのがあるのであれば、迷うことなくそれに手を挙げるべきだと思う。ある意味で背水の陣であるが、武士のように命を落とすことはない。