スペシャリストの生き方

自分だけの生態学的ニッチで生きる

日常業務の中にある研究素材

私の場合、損保会社の保険引受人(アンダーライター)の仕事をしていたとき、ある保険商品がなぜ企業に役立つのかを解説するための論文をマーケティングの一環で書いた。保険商品自体が研究素材になったわけであるが、論文の構成は保険商品の解説というよりも、なぜその保険商品が存在し、どのような場面で有効活用できるのかという分析が紙面の多くを割いた。

法的背景や訴訟制度の変化、社会環境の変遷など、その保険商品にまつわる周辺分野を丁寧に整理して分析していった。論文がうまくかけて読者の賛同が得られれば、自分の販売する商品の売り上げが増加するので、それは必死に調べて書くことになる。顧客が気づかない切り口や競合が述べていない論点を見つけては論文に仕立てた。結果的に保険商品を深く理解できることになるので、人前のプレゼンにも深みが出てくるという好循環が生まれた。

また、本社の管理部門で仕事をしていたときには社内の決裁承認を得るために、なぜその保険商品が会社経営にとって必要かを深く調べることになる。もちろん、ケースによっては当該保険商品が不要という結論になることもあるが、それはそれである課題に対する総括なのでよい。そのような論点は、日本企業全般に通用する論理の展開かもしれないので、論文として整理することで、次の世代への申し送り事項にもなる。つまり論文が引継ぎ書になっていることになる。

海外子会社に出張するときは、その国の法制度や保険制度も調べて論文の題材にもなりそうな論点を事前に整理し、現地でインタビューしたり調査したりした。もちろん、自分の業務に深くかかわる議論でもあるので、真剣に答えを引き出そうと努力することになる。そのようなときには、TOEICの英語などまったく不要で、必要なのは専門分野を深く掘り下げることができる英語が必要になる。

ロンドンの保険ブローカーへの出張時も世界の最新事情や彼らの考え方を聞くために、事前準備をして聞けることはすべて聞いた。アメリカに出張したときも、アメリカの特殊事情に関して、現地でしか回答が得られないようなことを、アメリカの保険会社に確認してみた。これらは、すべて最前線の現地の情報であり目が覚めるような気づきも多くあった。何といっても、その道のプロフェショナルと質疑ができるのでこんによい機会はない。これらの情報を知ることができる機会は、大学の研究室の研究だけでは達成できないことであり、得られた知見は、論文には大いに活かせることになる。