スペシャリストの生き方

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「論文博士」と「課程博士」は同じ水準か

博士論文の水準にかんしては、近江幸治『学術論文の作法』(成文堂、2011年)によると、早稲田大学大学院法学研究科の例を挙げて、特定のテーマにかんして、執筆者の創造性と高い知見とが要求され、分量は外国人留学生に140,000字程度を要求しているので、それ以上のボリュームであることが望ましいとある。そして、論文博士の場合には、論文だけで実際の学力を判断するのは難しいので、課程博士とは異なった審査が必要となり、たとえば、博士学位請求論文を受理するか否かの事前審査があったり、語学力審査もなされたりする。

私も、論文を執筆して8割程度ドラフトができたとき、そろそろどこかの大学に審査してもらおうと思い、何人かの方に相談した。私の場合、博士(法学)の学位申請を考えていたが、ある法学の重鎮に次のような助言をいただいた。

「課程博士とは異なり、論文博士は、格段に難易度が増します。論文博士の論文は、内外の先行業績の紹介がもれなくなされていることに止まらず、従来のアプローチとは異なる新しい角度からの当該問題の分析・解明が説得的に展開されていることが必要であり、当該論文が当該学問分野の従来の研究水準を格段に前進させるものと評価されるものでなければなりません。その意味でハードルは高いです。もしそのような論文となっていると判断される場合には、そう評価した先生が、主査となって、博士論文審査委員会の設置を当該研究科に申請し、許可出れば、通常5名の審査委員が選任されます。そして、当該専門分野の教授のほかに大所高所から意見を述べる専門分野以外の教授1名が入るのが普通です。」

この助言によって、論文博士で求められる水準が理解できると思うが、同じ博士でも実は異なるものであることに気づくと思う。なぜ、同じ博士でもこのような違いが生じるのかは、複雑な歴史的経緯があるようだが、博士論文の審査の水準が実際に異なるのは、一般の人には気が付かない意外な点だと思われる。

しかし、これらのことは大学院の規則などに明文化されているわけではない。形式上は同じものとされているといってよい。拠り所となるのは、結局、学校教育法104条2項であり、各大学は「博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し、博士の学位を授与する」ことになる。しかし、どこの大学でも不文律があるのか、過去からの申し送り事項なのかわからないが、求められる論文の水準に差があるようである。