職人的生き方の時代

自分だけの生態学的ニッチで生きる

「正規軍はゲリラに負ける」から学ぶ働き方

これからの組織のあり方や、ネットワークのあり方について示唆に富んだ記述に接しました。安富歩『満洲暴走 隠された構造』(角川新書、2015年)によると、正規軍はゲリラに負けるといいます。圧倒的な組織力と火力、展開力を誇る正規軍が、なぜゲリラに負けるのでしょう。

過去にベトナム戦争アルジェリア独立戦争ソ連アフガニスタン侵攻など、それを証明する事例は枚挙に暇がありません。そして、正規軍がゲリラに負ける理由は、コミュニケーションの構造だと指摘します。

たとえば、日本のような先進国といわれる国々では、国があって、県があって、村があってという構造がしっかりしています。よって、国が負ければ、県も村も負けて決着がつきます。この点で満洲も同じく先進国型の構造だったそうです。

ところが、先進国ではない場合、ネットワーク的に人々が生きています。ですから、ここで負けたらあっちへ行く、あるいは、あそこが負けても私は戦うとなり、いつまでも戦うことができます。キリがないわけです。

そして、満洲は中国では珍しく、ネットワーク性が低くて、ピラミッド型の県城経済システムが支配する構造だったので、関東軍が乗り込んで、ピラミッドの頂点から下に支配すれば、簡単に制圧できたそうです。県城というのは、古代中国の県の役所を守るための城のことになります。

それに対して中国本土は、分散的ネットワーク社会だったので、県城と鉄道を支配してもどうにもならない。ゲリラはどんどん村に引っ込んで、延々と戦い続けるわけです。いずれ正規の日本軍も疲弊し、消耗して音を上げるわけです。

ゲリラというのは、ナポレオンがスペインに戦争を仕掛けた時の、スペインの戦い方で、「ゲラ(戦争)」+「ーリャ(小さい)」で「ゲリーリャ(小さい戦争)」からきている言葉だそうです。

そこで思ったのですが、これからの経済のあり方、あるいは働き方でも同じことがいえるのではないかということです。大企業のように官僚的組織では、上からの指示は、下に伝わり、コミュニケーションの構造も整然としています。組織力でビジネスができ、攻める時は強いと思います。でも負ける時には一気に崩壊します。

そして、負けが決まった時は、そこで働いている人の多くは、組織から放り出されて路頭に迷うことになります。しかし、ゲリラ的なネットワークを持ち、機動的に働いている人は、なかなか負けないしぶとさがあるのではないかと思えるのです。

大企業で働けることは幸せだったかもしれません。でも意識してゲリラ的な働き方やネットワークを構築していないと、これから先は厳しいはずです。どんなに立派な大企業でも、いつかは衰退する時がきます。今、その引き金が引かれようとしている時代でもあり、個人としては、分散的ネットワーク社会で生きていくほうが安全という時代が来ていると思います。

よって「小さな戦い」を日ごろから実践し、分散型ネットワークを作るということが大切なのではないかと思った次第です。

「終身雇用制」など存在していない

わが国の雇用慣行について、基本的に終身雇用だから、というのはよく聞く話ですね。でも以前から、この終身雇用という日本語が不思議でした。終身雇用といいつつ、定年制があるのですから、終身ではありません。終身の意味は、命を終えるまでの間、すなわち、生涯、一生、終生のことであり、終身独身や終身保険という時にも使われる表現です。

なぜこのような誤用が生じたのか不思議でしたが、先日、岡本大輔「終身雇用制:再考」三田商学研究53巻3号(2010年)に接し、謎が解けました。

岡本氏の論文によると、終身雇用という言葉は、アベグレンの『日本の経営』(原題The Japanese Factory)に出てくる、permanent employment system, lifetime commitment, lasting commitment などの概念を、翻訳者が「終身雇用」と訳したのが原点ということのようです。

そして、この終身雇用という言葉が独り歩きし、日本に定着してしまったのでしょう。そもそも法律の条文には、終身雇用などという文言は一度も出てきません。著名な菅野和夫『労働法〔第12版〕』(弘文堂、2019年)でも429頁に一度だけ、長期雇用システムという言葉の補足として、括弧書きで「終身雇用制」と使われるだけです。

こうなってくると、有期労働契約に対する無期労働契約という語も怪しくなってきます。無期労働契約は、期間の定めがない労働契約です。たしかに、1年とか5年とか期間を定めていませんが、定年制で60歳や65歳という期限を設けているケースがほとんどです。結局、有期労働契約であることに変わりはないのに、無期労働契約といわれれば、希望すればいつまでも働けるような錯覚を起こしかねません。

残念ながら日本という国は、多くの人にとって働いても働いても豊かになれない国になりました。財布のどこかに穴が空いているとしか思えません。誰かに搾取されているのかもしれません。その犯人捜しをしてもどうしようもないので、ここは働けるところまで働くという選択肢が出てきます。

しかし、終身雇用制や無期労働契約という言葉は、多くの人にとって油断を与えてしまいました。60歳、あるいは65歳以降も活躍するための準備を怠らせることになったと思います。30歳、あるいは40歳でこの厳しい現実を受け止めることができた人は、着実に準備をしていると思いますが、大多数の人は土壇場になって気がつくわけです。

岡本氏は、いわゆる終身雇用制について前向きに捉え、失業の緊張感が少ない安定した社会を実現できるメリットがあることを指摘します。私もそのとおりだと思います。しかし、その安心感が、ある日突然、50代、60代のビジネスマンに過酷な現実を突きつけることも忘れてはいけないと思います。独り歩きする言葉は、時に無慈悲な結末をもたらすということを心得、事前に準備を怠らないということだと思います。

博士論文の審査結果が公表されていました

今日、自分の博士論文の審査結果の要旨が公表されていることに気がつきました。審査してくださった、主査の榊素寛教授、副査の行澤一人教授および行岡睦彦准教授には感謝の念に堪えません。

この結果のおかげで、今になって博士号を授与された実感がわき、先生方にどうやって恩返ししたらよいのかと考えてしまっています。

D1008553y.pdf (kobe-u.ac.jp)

神戸大学学術成果リポジトリ Kernel (kobe-u.ac.jp)

また、「本論文になお求める点」については、論文指導を受ける過程で生粋の研究者が求める研究水準の奥の深さを知ることができました。自分には到達できないレベルだと思いますが、それを知ることができたというだけでも得るものはあったといえます。

ここで博士号と修士号に大きな違いがあるのですが、博士号の場合、大学が授与してから3か月以内に博士の学位の授与にかかわる論文の内容の要旨および論文審査の結果の要旨を公表することになっています(学位規則8条)。このような公表義務は、修士号にはありません。

たとえば、私の修士論文の評価結果は、「修士学位論文審査報告書」東洋大学大学院(1992)に掲載されています。しかし、公表はされておらず、大学の図書館に行けば閲覧できるのだと思います。この点、博士論文の難易度は、修士論文の10倍という根拠の一つが、この公表義務かもしれません。論文を提出する者も、審査する者も相当なプレッシャーだと思います。他者から「なぜこの論文が合格なの?」という印象は持たれたくないでしょう。

また、審査する側の教員の立場からすると、おそらく剽窃・盗用が最難関です。いわゆるコピペですが、第三者の指摘で発覚するのは、指導教員にとっては一番怖くて、信用に傷がつくはずです。ですから、しつこいくらい出典は明示しておいた方が安心です。指導教員に安心してもらうためにも、本当に「しつこい」くらいがちょうどよいです。

今は、剽窃・盗用をチェックするツールがあるようです。私の論文も最低2回は、そのツールでチェックされていると思います。AIの時代が到来しましたが、おそらく論文の世界で使うのは危険です。自分だけでなく、指導教員や大学にも迷惑をかけます。だからしつこいくらい引用は頻繁にしておくことです。

やはり、博士論文は普通のサラリーマンにとって在籍期間を含めて8年計画くらいがプレッシャーがなくていいと思います。今回、博士(法学)を授与された方の中にも、社会人で2年の在籍で取得されている方が1人いるのに気がつきました。連絡を取って体験談を聞いてみようと思います。

社会人が大学院に行くのには合理性があった

大学院受験の塾をされている、藤本研一さんが、おもしろい数字をまとめていました。整理すると以下のとおりです。

・大学院生26万人

・65.3%が国立大学院

・34.7%が私立大学院

修士課程の9%が社会人(専門職大学院除く)

・博士課程の40.4%が社会人

専門職大学院の50.7%は社会人

修士課程の10人に1人が社会人

原文はこちらのリンクです。

2人に1人。なんと専門職大学院の社会人割合 修士課程も10人に1人!数字で読む大学院進学② | 働きながら大学院合格 毎年看護師をCNSコースへ輩出 社会人のMBA・早慶・北大大学院・OBS受験に対応 1対1大学院合格塾ゆう 株式会社藤本高等教育研究所 (school-edu.net)

博士課程と専門職大学院の2人に1人が社会人、そして大学院進学者数は、2010年をピークに減っています。ピークは金融危機の後で、就職できなかった人が、いったん大学院に退避したということだと思いますが、その後、着実に減っているようです。

リンクの科学技術・学術政策研究所のデータも興味深いです。

科学技術指標2020・html版 | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

2019年で、博士課程の学生数は14,976名で、うち社会人学生は6,349名です。修士課程の学生数は72,574名で、うち社会人学生は7,359名です。意外なのは、博士と修士の社会人学生の数が、1,000名程度の違いという点でした。もっと積極的に社会人が修士課程に進学していると思いましたが、そんなことはないようです。

また、興味深いのは、博士課程の社会人の割合が増えているということです。博士課程の学生数は減っているのに、社会人学生の数字は増えています。やはりリスク回避という観点で、働きながら博士号というのは合理的な選択肢ではないでしょうか。

修士課程における社会人が横ばいというのはどうしてかわかりませんが、パンデミック後に働き方が変わり、リモートワークも活用しながら、進学者も増える可能性はあると思いました。

ところで、クラウドファンディングの募集も残り3日となりました。「活動報告」にかなり情報を充実させて、今後の方向性もお示しいたしました。賛同いただける方がいれば、ぜひご参加いただければ幸いです。
社会人大学院に関する本の出版と研究会の立ち上げ - CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)

マイナカードに見る「国立大学って大丈夫」という懸念

私の長男は、私立大学で情報学を学んでいます。そんな長男には、修士課程に進学したいのであれば、国立大学か公立大学を探してくれといってあります。当然、学費が安価というのもありますし、特に理系の場合は、実験などの施設や機器が充実しているということがあるからです。

昨日、そんな長男から「国立大学って大丈夫なの?」と意外な指摘を受け、2023年6月16日の東京新聞「授業の出席チェックに「マイナカード」?国立大学に「利用実績」求め交付金を増減 学生証じゃダメなのか」の記事が送られてきました。

文部科学省がマイナカード普及の達成度合いを評価し、大学への運営費交付金の配分を増減する仕組みがあるそうです。そして、「マイナカードの取得は本来、任意のはずなのに、一部の大学では事実上の義務化が進んでいる」と記事にはありました。つい最近、どこかで聞いたセリフですね。

慶応大の堀茂樹名誉教授は「力ずくで政策を実行するため、大学を本来の目的とかけ離れたことに利用しようとしている。言語道断だ」と怒りをあらわにします。東京大の石田英敬名誉教授も「交付金をエサにマイナカードの導入を押しつけている。大学の自治の観点から問題だし、大学も政府の介入に無防備になっている」と指摘します。そして、宇都宮大などでは、マイナカードの導入に積極的で、2021年4月以降の入学生に対し、図書館の利用と授業時間外の建物への入棟について、学生証ではなくカードの利用を原則としたそうです。

これは、国立大学に限らず、私立大学にも影響するテーマです。最近であれば、政府が10兆円規模の大学ファンドを創設し、運用益を大学支援に充てるという、国際卓越研究大学制度といものがあります。 国公立大学以外では、早稲田大や東京理科大も申請しており、対象校と認定されれば、ファンドのお金が入ってきます。詳しい仕組みはここで説明しませんが、認定大学に対して時の政府の介入が容易になる制度です。大規模な大学の自治など、実態は内部の人でもわからないかもしれませんが、人知れず文部科学省天下り先確保や、御用学者の確保が進んでいるともいえます。

中央公論二月号の特集で、大学10兆円ファンドについて各大学の学長の見解が出ていました。電気通信大学の学長は、「大学の多様性や自由を奪う危うい制約である。この前提条件が見直されない限り申請しない」といいます。金沢大学の学長も、「いわゆる『稼げる』研究分野が重宝されることは明白である。基礎研究分野や、人文科学分野に代表されるような、中長期的な視点を持つことが重要な研究分野が存在することも忘れてはならない」と指摘します。

このように、本当に素晴らしい研究者の方がいると思う一方で、無防備に外部資金への依存を高める大学もあるということは知っておくとよいと思いました。

お父さんはちょっとだけ YouTuber

大学院合格請負人の藤本研一氏との対談が、YouTubeになりました。子どもたちにはバカにされそうですが。

働きながら大学院で博士号取得!仕事と大学院の両立に成功!山越 誠司さんインタビュー - YouTube

YouTubeでのセミナー経験はありますが、対談は初めてです。社会人大学院や論文執筆に興味のある方はご視聴ください。

 

社会人大学院合格塾の取材を受けました

先日、中学時代の同級生が紹介してくれた、「社会人大学院合格請負人」の藤本研一さんの取材を受けました。以下リンクが記事になります。しかも、藤本さんからクラウドファンディングのご支援もいただきました。

https://school-edu.net/archives/29828

それにしても、塾という業界では18歳人口だけを相手にしていれば、限られた市場でしのぎを削ることになり、行き詰るのは目にみえています。しかし、社会人大学院であれば、あらゆる世代を想定顧客にでき、潜在的な候補者を掘り起こすだけなので、オンリーワンでよいビジネスモデルだと思いました。このまま社会人大学院研究会にも参加いただければ、大きな力になると思いました。