スペシャリストのすすめ

自分だけの生態学的ニッチで生きる

地球温暖化説に煽られず踏みとどまる

私たち人間の活動が地球温暖化を引き起こしているのかどうかは検証が難しいテーマです。科学者でさえその答えを見出すことは難しいのですが、はっきりと人類の経済活動等によって排出される炭酸ガス地球温暖化の影響であると断言する人もいます。それは、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、以下「IPCC」)に参加している2,500名の専門家です。

しかし、この専門家たちが主張していることは本当に正しいのでしょうか。IPCCの第1次報告書が出たのが1990年で二酸化炭素による地球温暖化を警告しはじめてから30年以上経過しました。しかし、実際に温暖化が起こったのは7年から8年に過ぎず、その後の世界の平均気温は頭打ちになっています。

以前、二酸化炭素による温暖化の誤りを見抜いて、温暖化商人の暗躍に警鐘を鳴らしていた、オーロラ研究の第一人者の赤祖父俊一氏の見解をご紹介しました。

誤った地球温暖化論に切り込む一人の研究者 - スペシャリストのすすめ (specialistbiz.jp)

地球温暖化と炭酸ガス排出に相関はない - スペシャリストのすすめ (specialistbiz.jp)

そして、赤祖父氏のような誠実な科学者は一人ではなく、多くの科学者が現在、声高に主張されている地球温暖化説に異を唱えています。

金属物理学が専門の深井有博士も、地球温暖化説に懐疑的です。深井有『地球はもう温暖化していない』(平凡社新書、2015年)によると、わが国でも毎年数十兆円の税金が温暖化対策に使われているが、IPCCの報告書を読むと辻褄が合わなかったり、意図的に国連主導の大義のために結論が導き出されていることが分かり、この温暖化防止キャンペーンに疑問を抱きます。

人間活動による二酸化炭素の排出が温暖化をもたらす可能性は20世紀後半には認識されていましたが、1995年に出されたIPCCの第2次報告書で、将来の地球にとって深刻な脅威であるということが指摘され、それ以来、世界を巻き込んで巨費が対策に投じられてきました。ところが、世界的にみると日本以外の他の国では比較的冷静で、温暖化の科学的根拠に疑問を持ちはじめている傾向があります。

深井氏によると、その理由は簡単であるといいます。1998年以来、二酸化炭素の排出量が増え続けているのに、気温の上昇は頭打ちになっているからです。そこで、2014年に出されたIPCCの第5次報告書も、この事実について触れざるを得なくなり、何らかの理由で温暖化が一休みしているという言い訳をします。

実際には、世界の気温は過去100年に波を打ちながら上昇し、1998年からは頭打ちになっています。気温が上昇したのは100年のうち半分しかありません。ICPPは大気大循環モデルの枠組みでスーパーコンピューターによる予測を行っていますが、彼らの気温上昇の予測に対して、1998年以降の現実の気温は横ばいであり、彼らの予測と現実との乖離はますます大きくなっています。

ところが、ICPPの第5次報告書では、これらの事実は明記されていません。それにもかかわらず、2007年の第4次報告書以上に地球温暖化が人為的要因であることが強調されています。深井氏は科学者の視点で、1998年以来の矛盾を説明できない人たちが、これから先の50年あるいは100年を予測することにほとんど意味がないといいます。一方、報告書の要約しか読んでいない政策決定者やマスコミは、物事の本質を見抜けずに、相変わらず温暖化防止キャンペーンに注力することになります。

私たちは科学者や専門家に弱い傾向があります。直近では、パンデミックにおいて、対策をしなければ40万人が死亡するという説がありましたが、結果をみればあまりもナンセンスで明らかな間違いでした。でも専門家がいうなら、ということで多くの人はその説に従ったのでしょう。しかもその後、その説に関して検証がされることも追及されることもありません。

特に日本は科学的根拠を探求するという姿勢が弱いのは事実だと思います。そこが良いところでもあるのですが、容易に煽られて、意図的な理論に誘導されてしまいます。私たち一人ひとりは、通説として正しいといわれる解釈に対して、徹底的に疑ってみるという姿勢も大切だと思います。検証力を磨いて温暖化商人のカモにならないことが必要だと思いました。深井氏の研究については、別途詳細をご紹介したいと思います。

「日本の農業は過保護」ということはない

日本の農業は過保護だから競争力がないなど、市場原理主義者がよくいうことですが、本当にそうでしょうか。他の先進国と比較するとそんなことはないようです。たとえば、アメリカが農作物の輸出国になっていますが、多い年には穀物輸出の補助金だけで1兆円あるということが、鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書、2021年)で指摘されています。どうも日本では農業政策を意図的に農家保護政策に矮小化して批判している人たちがいるようです。もっと客観的なデータに基づく議論が望まれます。

たとえば、OECDのデータによれば、日本の農作物の関税率は11.7%と低く、多くの農産物輸出国の二分の一から四分の一程度でがんばっているということです。インドなど124.3%の関税率です。ノルウェーは123.7%、お隣の韓国でも62.2%、スイスが51.1%、EUが19.5%などとなっています。よって、日本の農業が高い関税に守られているということはないということです。

また、価格支持政策を廃止したWTO加盟国一の愚かな優等生は日本だそうです。一方、EUなどは、農業補助金総額を可能な限り維持する工夫を続けて、介入価格による価格支持を堅持しているとのことです。アメリカでは、穀物や乳製品を支持価格で買い入れ援助や輸出に回しています。食料援助で1200億円、国が輸出相手国の保証人になる輸出信用では4000億円も負担しています。コメ、トウモロコシ、小麦の三品目でも4000億円の輸出補助金を出しているということですから、多い年には約1兆円の輸出補助金を使って国が農業を守っているのです。まるで日本の農家の努力不足が原因で、日本の農業の競争力がないという意見は、単なる印象でしかないのではないでしょうか。

さらに、農業所得は補助金漬けのようなイメージの見解も聞こえますが、日本の農家の所得のうち、補助金の占める割合は30%程度なのに対して、英仏では農業所得に占める割合は90%以上、スイスではほぼ100%で、日本は先進国で最も低いほうなのです。

所得が税金で賄われるのはけしからんという人もいるかもしれませんが、アメリカやヨーロッパでは、命や環境を守り、国土や国境を守っている産業ということで、国民が支えるというのが当然ということです。農業は安全保障上も国として守らなければならないのです。鈴木氏はいいます。日本政府は、オスプレィやF35戦闘機などに何兆円も使っているが、万が一、食料がなくなってもオスプレィをかじることはできないと。

私たちは自由競争が善で保護貿易が悪ということを、ヨーロッパやアメリカから輸入した経済学によって信じ込まされていますが、当のヨーロッパやアメリカは、したたかに安全保障の観点からも農業を守っているのです。そのような事実も確認せず、日本の農業の競争力がないという主張をする人たちには、ぜひ鈴木氏の文献を参照していただきたいと思いました。そして、私たち消費者も戦略的に購入する食材を選ぶべきなのだと思います。日本の農業を支える姿勢が必要なのではないでしょうか。

私大推薦入試の惨状を知り国立大学志望へ

自分の三人の子どもたちが順次大学受験をする時期に来ています。三人とも大学には行きたいようなので、否定するつもりはありません。そんな時期にネットでみつけた、船橋伸一=河村振一郎『夢をかなえる大学選び』(飛鳥新社、2019年)を読む機会がありました。ある程度想定内の内容だろうと思いましたが、書評の評価が良かったので買ってみました。その内容は想定内のこともありましたが、意外な視点もあり、書評のとおり読んでみて正解でした。そこで得られた異なる視座は、私の長男へのアドバイスとしては手遅れですが、長女と二男への応用には十分間に合います。いくつか気づきを得た点をご紹介したいと思います。

まず、今の企業の採用担当者は、私立大学に総合型選抜(旧AO入試)で入学した学生を採用したくないと考えている点です。楽して難関大学に入っても、その時点で「難関」大学ではないということです。人事担当者は、たとえ有名私大だとしても、総合型選抜の学生を避けて、一般入試の学生を採用したいようです。結局、明らかに実力差があるということが経験的にわかっているのでしょう。問題は、どうやって総合型選抜であることを見抜くのかという点。この点、書籍からはわかりませんでしたが、人事担当者が面接のときにうまく聞き出すのでしょうか。

親としては、子どもに苦労させたくないと思うと、つい推薦入試でなどと思うわけですが、残りの長い人生をたくましく生きていく実力を身につけてもらうには一般入試をさせるべきだということがわかりました。ケースによっては、3月まで合格結果が出ない場合もあり、親としては落ち着きませんが、そこは我慢ということでしょう。

次に、私立大学総合型選抜入試の学生の中退率の高さです。地方国立大学では、1~2%ですが、私大の場合は30%を超える学部もあるそうです。入学してから授業についていけない、あるいはモチベーションが維持できないということでしょう。首都圏の有名私大のいくつかの学部でも、そのような現象が生じています。

そして、私が大学生になった1987年の大学進学率は25%でしたが、今は約55%にもなりました。1987年の18歳人口が200万人ほどでしたが、今は114万人ほどと減っています。ただ、1987年当時大学生になった人は50万人で、それに比べて今は62.7万人なので、実数では12.7万人増えたことになります。問題は、1987年当時の大学数は、474校だったそうですが、今や800校に迫る勢いです。大学入学者が12.5%増えた程度で、約330校も増やしていいのかということ。希望者全員が大学に入れるのは良いことですが、学ぶ意欲のない学生もとりあえず大学へということになっていないのでしょうか。

実際、著者の一人の船橋氏は、学生に「長野県は北海道にあるのですか?」とか、「"りいき"とはいったい何ですか?」とか聞かれたことがあるそうです。あとで詳しく聞くと「利息」のことだとわかったそうです。これが現在の大学生の実態なのでしょう。

親として思ったことは、残りの二人の子どもには、とりあえず最初は地方の国立大学を目指してもらおうと思いました(首都圏は難度が高すぎ)。五教科学ぶのは大変ですし、小論文が必要な大学も多いです。わが子を含めて多くの子どもが文章を書くのが苦手です。ただ、自分の考えていることを文章にして発信する能力は、大学でレポートを書くだけではなく、社会人になってからも仕事で必要になるでしょう。残りの人生で必要なスキルでもあるので無駄にはなりません。

自分が高校生のときに国立大学を志望し、途中で私立大学に変更しておきながら説得力はないかもしれませんが、幅広く学び、じっくりと自分の専門分野を探すのもよく、二人の子どもには、いったんは国立大学を目指すべきことを提案したいと思いました。考えてみると、高校生の段階で、学びたいこと、自分の得意なことなどわからないことが多いと思います。世の中にどんな職業があるのか理解している成熟した高校生は多くないでしょう。そう考えると、広く何でも学んでおくことは悪いことではありません。強みを生かして効率よく受験するというのも戦略的にあり得ますが、充実した人生を送るという長期戦略に立ち返ると、大学受験でしか通用しない効率重視の受験対策はいったん横に置いてもよいと思いました。

企業が儲けるために奪われる食の安全

日本の食の安全がなぜここまで脅かされているのでしょうか。各種規制が非常に甘く、農薬や食品添加物の氾濫について冷静に考えると、日本社会でこれだけ病人が増えているのはうなずけます。

手許にあるパンでもお菓子でもなんでもいいですが、表示をみるとショートニング、マーガリン、乳化剤、増粘多糖類など、長期継続的に体に取り込めば、それはおかしなことになるのが明らかな食品添加物がみられます。規制当局は当然危険であることはわかっていると思いますが、そのような物質を使用すること許さざるを得ない何らかの理由があるのでしょう。私企業からの圧力に公的機関は抵抗できないことがあるのかもしれません。

しかし、日本の食に関して、このような食品添加物や農薬の問題と同じか、それ以上に深刻な課題も存在していることが、鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書、2021年)によって指摘されています。それは農作物の種子の問題です。

まず、日本政府は、2018年に種子法を廃止しています。種子法は、コメや大豆、麦などの種子の安定的な生産と普及のために国が一定サポートするという法律でした。それを廃止したのは、種子の生産という分野に民間企業を参入させるためといわれています。

もう一つ、知的財産法の一種である種苗法が2020年に一部改正され、農家による種子の自家増殖について、種子育成をした企業である育成者の許諾が必要とされました。これでは、農家が自由に種子を生産できません。許諾を得られなければ、企業から種子を買う必要が出てきます。

このような背景を踏まえて、鈴木氏は、そもそも「種は誰ものなのか」と問題提起をします。私たち人類が何千年にもわたって守り育ててきたもので、各地域の伝統や食文化と密接な関係にある一種の共通資源のはずです。よって、種子は知的財産権には馴染まない性質のものであり、そもそも育成する権利は農家にあるといっていいと指摘します。

たしかに、新品種を育成するには、多くの時間、資金、労力が必要で、企業などの育成者がこれらの投下資本を回収できるようにするという、知的財産法としての種苗法の趣旨は理解できますが、それを人々の健康や国の安全保障にもかかわる種子に及ぼすのは問題ではないでしょうか。

その他、2023年から遺伝子組み換えでない表示の実質禁止が決まっております。これは、私たちから食品の選択肢を奪うことになります。そもそも、どの食品が遺伝子組換え食品で、どれが自然食品か判別できなくなるので、私たちに選択権がないことになります。また、農協の株式会社化もあります。これは協同組合だと買収できないので、株式会社にして農協の再編も容易にできるメリットがあります。さらに、遺伝子組換え食品とセットの除草剤(グリホサート)の輸入穀物残留基準値の大幅な緩和もあります。アメリカでは、遺伝子組換え種子とセットのグリホサートで発がんしたということで、グローバル企業に多額の賠償判決が出ているにもかかわらずです。

食の安全と引き換えに、経済を優先しているのが今の現状です。企業の利益のために、大切な食の安全および安定供給が奪われていることを認識しなければならいと思います。2018年には、ドイツの製薬会社のバイエル社が、遺伝子組換え作物に使用するグリホサートの除草剤で有名なモンサント社を買収しています。農薬や除草剤で危険な食品を食べて病気になり、薬を服用する。日本の病人を増やして、薬で治療すれば、この企業グループにとって、一度に二度おいしい、新しいビジネスモデルともいわれているそうです。

日本の規制当局は、日本人の病人を増やしたいなどと思っていないと思います。そんなことをすれば、自分たちや自分の家族も被害者になるはずです。それでは今、なぜ日本でこような不条理なことが進行しているのでしょうか。私には外圧しか想定できません。この辺の事情は詳細に検証することが必要だと思いました。私たちと、未来の子どもたちにも影響があることなので。

日本は世界の大手食品メーカーの草刈り場

日本の食の安全は守られていないと思われます。守りたいけれど、守れないほどの圧力が、アメリカ政府を通して、グローバル企業からかかているのだと。そして、危険な食の多くが日本に押し付けられており、それを消費するのが日本に住む人々。

ここでいう危険な食とは、遺伝子組換え食品や大量の食品添加物、農薬を使用した食品、ホルモン剤で調整された肉など、冷静に考えれば、健康のためにも食べたいとは思えない食品です。日本においてこれだけ危険な食べ物を私たちが消費してしまう理由は、グローバル企業の圧力によって、日本の法律や各種規制が緩められているからでしょう。日本の政治家や官僚一人ひとりも、そのようなことはしたくないと思っているはずですが、組織に圧力がかかると抗しきれいないのだと思います。志の高い政治家や官僚に対しては、ある意味で気の毒な気がします。彼らだけを責めることはできません。

この辺の事情を詳細に分析した書籍に、鈴木亘弘『農業消滅』(平凡社新書、2021年)があります。鈴木氏は東大教授という立場でありながら、自らの良心の叫びに素直に従い、この書籍を執筆したのだと思います。なぜそう思ったのかというと、書籍の巻末に「本音の政治・行政用語の変換表」というユーモアを交えた付録があります。いくつか紹介しましょう。

国益を守る:自身の政治生命を守ること。アメリカの要求に忠実に従い、政権と結びつく企業の利益を守ることで、国民の暮らしは犠牲にする。

自由貿易アメリカや一部企業が自由に儲けられる貿易。

・自主的に:アメリカ発のグローバル企業の言うとおりに。

・戦略的外交:アメリカに差し出す、食の安全基準を緩和する順番を考えること。

有識者:はじめから結論ありきの意に沿う人々。

・科学主義:疑わしきは安全。安全でないと証明されるまでは規制してはならない。人命よりも企業を守る。対語は、予防原則=疑わしきは規制する。

農林水産省での勤務経験も生かしたこのユニークな変換表は、東大教授という立場からの発信であることを考えると、相当勇気が必要だったのではないでしょうか。しかし、それ以上に、日本の食に対する危機感が勝ったのでしょう。

鈴木氏は、日本の食料自給率が38%を下回り、3分の2以上を海外に依存するようになると、今回のパンデミックのようなことが引き金になった場合、各国で輸出規制が起きて日本が一気に破綻することを指摘します。現状をみても輸出規制は意外にも簡単に起こり得るわけで、そのような状況に対して日本は脆弱であります。これに対する解決策は、貿易自由化に歯止めをかけて、食料自給率を向上させるしかないことを提言します。

一方、世界貿易機関WTO)は、貿易自由化を徹底して、貿易量を増やすことが食料価格の安定化と食料安全保障につながるという真逆のことをいっています。誰が聞いても無理のある話で、貿易自由化がもたらしたのは、グローバル企業による市場の支配であり、発展途上国からの搾取や、世界の貧困の拡大というようなことではないでしょうか。結局は、WTOもグローバル企業の代弁者ということでしょう。そして、日本はまさしくグローバル企業の草刈り場であり、実験場でもあるのかもしれません。この辺の詳しい検証は、鈴木氏によって行われているので、また別の機会に紹介したいと思います。

陰謀論の背後にある事象から考える憲法論

憲法の問題はなかなか答えが出ないテーマです。改憲派護憲派、保守と革新、保守とリベラルなどいろいろな対立の構図ができて、議論は常に平行線をたどります。私の現在のポジションは、日本国憲法のままでいいという立場です。

理由は、たとえ自主憲法ではないとしても、今の日本にとっては都合がよい憲法になっていると思うからです。自主憲法ではないといっても、日本人によって、日本国憲法の土台となる条文は、いろいろな角度から検証され、今の憲法に生きているので、ある意味で自主憲法でもあると思うのですが。特に人権保障はしつこいぐらい多様な条文が規定されています。また、いつも議論になり結論が出ない憲法9条も今の日本にとっては望ましいのかもしれません。そう思わせる意見に接したのでご紹介します。

渡辺惣樹=茂木誠『教科書には書けないグローバリストの近現代史』(2022年、ビジネス社)において、渡辺惣樹氏はご自身が自主憲法派であるものの、イラク戦争の裏の動きに気づいてから、徐々に考え方が変わってきたそうです。保守派に怒られることを覚悟し、「アメリカがつくった憲法」という形で残して、参戦すべきではない戦争には行かない口実にできると思ったそうです。

アメリカを信用できないのも9.11のテロからも明らかといいます。わずか二機の飛行機で、超高層ビル二棟を崩壊させる芸当が、ビン・ラディンにできるわけがありません。もう一棟の7番ビルも火事だけで崩壊しています。9.11テロ事件は、他にも論理的に説明できない事象が多すぎるといいます。

いずれにしても、イラク戦争自衛隊が戦闘に参加しなかったのは正解だと指摘します。当時、9.11テロにやらせの可能性があることなど思ってもみなかったわけですが、渡辺氏は歴史家になってアメリカの狡猾さを知ってからは、アメリカにNOと言いやすい、アメリカ製憲法の逆利用もありだという考えのようです。私も渡辺氏の意見に同意します。

思想家のマキャベリは彼の著書の『君主論』の中で、君主にとって人々の分裂は大変有用なものだと述べます。そして君主への助言をします。まずは一番に、分裂した都市の信頼を勝ち取ること。殴り合いにならない間は当事者の調停者になり、殴り合いになったら、遅ればせながら弱い方を支持すること。どちらの場合も、当事者に抗争を続けさせ、疲れ果てさせることが狙いです。

マキャベリの考えは次のとおりにまとめることができます。

1.策動者に矛先が向かないように、民衆の間に対立や問題を起こさせ、互いに戦わせよう。

2.紛争の扇動者としての本当の姿は隠したままでいよう。

3.戦う当事者の双方を支援しよう。

4.紛争を解決できる篤志家とみられるようにしよう。

現在起きているウクライナ紛争、過去の第一次世界大戦第二次世界大戦など、あらゆる戦争は仕掛け人がおり、両陣営に武器と資金を供給して、さらに儲ける人たちがいるということでしょう。このようなことをいうと「陰謀論」というレッテルを貼られるわけですが、こういうのがカウンターインテリジェンスといい、真実の情報を無効化するための防諜活動の一種なのだと思います。真実を隠蔽するための陰謀論が無数に存在しているわけで、その陰謀論をかき分けて真実にたどり着くことが大切です。今は比較的情報開示が進んでおり、陰謀論を見分けやすくなってきていると思います。一方で、あらゆる疑惑に対して、陰謀論というレッテル貼りをして片づけてしまう人が多いことも残念なことです。

ワクチン懐疑派の論文は意外に多い(5)

Neil Z. Miller, Miller's Review, Miller’s Review of Critical Vaccine Studies (2016)には、400本以上の論文要旨が掲載されていますが、私が紹介できているのは、その5%以下です。それぐらい多くの論文が存在しているにもかかわらず、ほとんど世間に紹介されることはないようです。この点についていえることは、一言に尽きます。「資金力」です。資金力があれば、どんな論文も表に出てくることができる。そして、資金力があれば、その論文が表に出てこないようにすることも可能であろうと思いました。医学や薬学の論文に特有のことかもしれませんが、重要な点だと思います。

本題の論文ですが、まず中立であると思われている、アメリカの公衆衛生機関のCDCに関する論文をみてみましょう。

Lenzer J, Center for Disease Control and Prevention: protecting the private good? BMJ 350, h2362 (2015)

CDCは製薬会社との間に金銭的な取引はないと主張していますが、これは事実ではありません。1992年、米国議会は、CDCと産業界の関係を促進するために、非営利のCDC財団を設立する法案を可決しました。そして、製薬会社はCDC財団に寄付をしています。CDCは、企業やCDC財団から毎年数百万ドルの「条件付資金」を受け取っています。さらに、CDCが製薬会社の利益に影響を与えるような研究を行った場合、製薬会社はCDCを罰することができます。産業界からの資金提供は、治療法の推奨や研究結果に偏りを持たせるものであり、公衆衛生機関として容認できるものではありません。CDCが産業界から資金を得ているという事実は、CDCにもっと倫理的になるよう、利益相反を避けるよう求めても解決しないことを示しています。そもそも、アメリカの立法者がこの問題をもたらしたのであり、問題を解決するために新しい法律を作るしかないのです。

次にHPVワクチンに関する論文をみてみます。

Brinth L, Theibel AC, et al., Suspected side effects to the quadrivalent human papilloma vaccine, Dan Med J 62(4) A5604 (2015)

この論文では、HPVワクチンによる神経系の副作用が疑われる53名の女性患者を調べ、その共通する症状について述べています。デンマークでHPVワクチンの接種プログラムが開始された後、一部のワクチン接種者に自律神経系の不調を示す一連の症状が現れはじめます。症状としては、頭痛、起立性不耐症、失神、疲労、認知機能障害、不眠、光に対する過敏症、腹痛、神経障害性疼痛、胸痛、震え、痙攣、筋力低下、歩行困難、生理不順、ドライマウス過呼吸などが挙げられます。HPVワクチン接種後,全員が2カ月以内に発症したと報告しており、ワクチン接種から発症までの平均期間は11日でした。症状が出る前、この患者たちは高いレベルの身体活動をしていましたが、症状が発生した後、98%が日常生活を続けることができず、75%が少なくとも2ヶ月間、学校や仕事を中断しなければなりませんでした。HPVワクチン接種後、筋力低下、疲労、痛み、月経障害などの自律神経系へのダメージが一貫して報告されています。

Little DT, Ward HR, Adolescent premature ovarian insufficiency following human papillomavirus vaccination: a case series seen in general practice, Journal of Investigative Medicine High Impact Case Reports 2(4) (2014)

本論文は、HPVワクチン接種後に早発卵巣不全を発症したオーストラリアの10代の若者3人の症例について述べたものです。HPVワクチン接種後の3名の少女における早発卵巣機能不全の診断は、ワクチンの対象となる若い女性の将来の出産や生殖に関する健康に影響を与える可能性があります。早発卵巣機能不全の女性のほとんどは、初期症状として月経周期の変化がみられます。そして、現在のHPVワクチンの安全性研究は、卵巣の安全性を判断するのに十分ではありません。結局、HPVワクチンを接種した少女と接種していない少女の月経パターンのコホート研究は不可欠であり、商業的利益とは無関係に実施されるべきことが提言されます。

新型コロナ・ワクチンではいろいろな混乱がみられますが、既存のワクチンでも大いに議論されるべき課題が山ほどあることがわかりました。しかし、その点真剣に議論しようとすると、必ず潰されてきたのが過去の歴史なのかもしれません。研究者は変人扱いされ、社会的評判も落とされて出世も難しいようです。ワクチン推進派とワクチン懐疑派では、圧倒的に前者が有利なのは、その資金力の点で明らかです。潤沢な資金提供を受けられる研究環境とそうでない場合では、結果はおのずと明らかです。しかし、お金だけが人間を動かす原動力ではない、ということは、今の状況をみてもわかります。地位や名誉を捨ててでも、真実を探求している研究者がいることに安心感を感じます。ぜひそのような方々の実力が発揮できる環境が整うことを願うばかりです。